そこにいるだけで

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 俊之は佳枝のズボンを下げた。左右二箇所のマジックテープで留められるようになっている紙おむつが姿を現す。どうしてもマジックテープの位置を左右均等にできない。加えて鼠径部に隙間ができてしまっている。中のパッドの当て方がまずいのもあって、そこから尿が漏れているのだ。  不格好に留められたマジックテープを剥がして中身を開いた。閉じ込められていた臭いが解放されて広がる。  祖母の毛は剃られていた。自力でトイレに行けず、紙おむつの交換に頼るようになったため、陰毛が邪魔になって清潔を保てないからだ。剃毛せずに便の失禁などあれば、不慣れな手では完全に洗いきるまで三十分でも足りないだろう。  自力で動けない祖母の介護をするようになって、まだ三週間しか経っていない。他人からやり方を教わったわけではない。家にあった本と、母のやり方を参考にして、見よう見まねでどうにか身につけた程度だ。家の環境も含めて快適ではないはずだが、佳枝が不満を漏らすのは見たことがない。  祖母の介護をするようになって三週間が経つ。祖母が他人の手がなくては生きていけなくなって、少なくとも二年を数えている。  2
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