そこにいるだけで

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 最近はなかなか来ないけど、と浅いため息を帯びた声で言い足した。 「みんな結婚したからな」 「それを言わないでよ」  和美の上には二人の姉がいて、どちらも結婚して家にはいない。俊之もよく知る三姉妹だったが、気軽に付き合いを続けているのは、親戚の中でも和美しかいなくなった。  店員がビールとお通しを持ってやってきた。別の注文を聞いた店員が威勢の良い返事をして個室を出ていくのを見届けると、二人はジョッキを付き合わせた。俊之は一息で半分を飲むのが限界だったが、和美は息継ぎもせずに飲み干した。 「カズも飲まなきゃやってらんない状況?」  和美は空のジョッキで机を叩き、効くわー、と高い声を上げた。その様子には憂さを晴らすような昂ぶりが見て取れる。 「いつだってそうだよ。お姉ちゃんたちは本当にとんとん拍子で仕事も結婚もうまくいったけど、あたしはそうならなくて」 「まだ学生だろ。焦るなって」 「周りはそう言うけどさ」
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