そこにいるだけで

「あたしはまだ、モラトリアムだけど余裕はあるよ。それよりとっちゃんだよ。仕事辞めて、どうするつもりだったの」
「あー、それ言われると……」
　曖昧な笑みでごまかすしかなくなってしまう。理由はいくつか挙げられる。人間関係、給料、将来性、職場環境、上司との相性、等々、等々。けれど、どれも自分の努力次第で何とかできたのではないかという思いが残っていて、辞めた後に後悔として募ってくる。結局のところ、努力を避けて逃げただけではないか。後悔の中身に詰まった言葉は、日に日に重さを増してきている。
「何にも考えてないわけね」
「まあー、ね。仕事は探してるよ。面接もしてるけどね」
「お祈りメールとか来ちゃうの？」
「もらわない奴なんていないよ」