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1-1 私
私は、まったく同じ時間にまったく同じ道を通って通勤している。そんな生活を続けて今年で4年。このところ毎日その道に、ある少女の姿が見えるのだ。
人気のない大通りの交差点。遠くに鳥の声が聞こえる、大きな信号の向こう側に、少女は1人で佇んでいる。
私がこちら側の道で信号待ちをしていると、反対側の道からじっと見つめて来る。そして信号が青になると、すれ違うようにして、脇目も振らずに走り去ってしまうのだ。毎朝毎朝、少女はそこにいて、信号が変わると走り去っていく。
その少女はとても顔立ちが整っていて、その瞳の綺麗なことといったら、葉に降りた朝露の様に美しく、また同時に儚くもあった。
私はだんだん少女に惹かれていった。
声なんて掛けられなかった、声を掛けたりすれば、何かが壊れてしまうような気がしたから。少女を見るだけで、それだけで幸せだったから。毎朝のささやかな幸せを失いたくなかったから。
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