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10 あ、あんたは!?
オフステージ(こちら空堀高校演劇部)10
「「あ、あんたは!?」」
副題を(こちら空堀高校演劇部)としながら演劇部のことがほとんど出てこない。
けして作者がサボっているわけではなく、その理由は、第一に、空堀高校の演劇部は広い部室のわりに活動の実態がないからである。
第二には、この名ばかり演劇部が、生徒会より「部室の明け渡し」を迫られ、部長であり、たった一人の演劇部員である小山内啓介の悪あがきに影響される生徒たちの青春群像であるからである。
その群像の要である啓介は、近所のコンビニに入ったところである。
「いらっしゃいませ~」
コンビニ店員のマニュアル挨拶はシカトして冷蔵食品のコーナーを目指す。
「お、あった、あった!」
啓介は、連休限定冷やし中華を手に取って、まっすぐレジに向かった。連休限定といっても特別なものではない。平常価格よりも50円安いのである。安いのでレジの順番待ちをしている間に、カウンターのドーナツに目が行ってしまう。
で、ドーナツの中に新製品があった。ドーナツのくせに穴が開いていない。値段はレギュラーのドーナツと変わりがない……ということは穴が詰まっている分「お得だ!」と思ってしまい、自分の順番が回ってきたときには冷やし中華といっしょに勘定してもらうことになる。
まんまとコンビニの策略にしてやられたわけだけれども、啓介に自覚は無い。
「いい買い物をした」
独り言ちて、第二目標の真田山公園を目指す。
真田山公園はグラウンドが隣接していて、そのグラウンドも公園の一部に見えて都心の公園としては広く感じられる。
啓介は、そのグラウンドを望むベンチに腰掛けて冷やし中華を取り出した。ベンチの端は植え込みになっていて道路側からの視線を隠してくれるので、絶好の休憩スポットなのだ。
目の前のグラウンドでは、地元の野球チームが試合の真っ最中である。
――見てるぶんには、野球はおもしろいよなあ――
中学で肩を痛めて以来、自分でやる野球はご無沙汰だけれど、野球観戦はする。それも身銭を切って野球場に行くようなことはしない。こうやって、ジャンクフードを持ってボンヤリと草野球の空気の中にいるだけでよかった。
8回の裏、先攻のチームが三者凡退に終わったあと、後攻のチームがツーアウトで満塁になった。
あの時といっしょや……。
啓介は、中三の時の自分の試合を思い出した。
あのとき無理をせずに……という想いが無くは無かったが、その後の萎んでしまった自分の情熱を思えば、これで良かったのだと思いなおす。
バッターが、思い切りスゥィングした。カキーンと小気味いい音がして、ボールはホームラン!
で、フェンスを越えてボールは啓介に向かって飛んできた。だが、元野球少年の勘は、わずかに逸れると判断。判断通り、ボールは真横の植え込み、それも木の幹に当った。当たり所もよかったのだろう、バキッっと音がして植え込みの中心になっていた木が折れてしまった。
「「あ……………」」
声が重なった。
折れた木の向こうは、同じようなベンチがあって、ベンチには鏡で映したように同じポーズで女の子が冷やし中華を食べていた。
「「あ、あんたは!?」」
クラスメートのミリーであった……。
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