3 で、わたしは……

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3 で、わたしは……

オフステージ(こちら空堀高校演劇部) 3 で、わたしは……                      生徒会副会長瀬戸内美晴は、軽く姿勢を崩すと胸元で腕を組むとブレザーに隠れた豊かな胸が強調され、ルパン三世の峰不二子のような押し出しになった。 「分かってると思うけど、クラブとして認定されるためには5人以上の部員が必要なの。5人に満たない場合は同好会に格下げ。同好会は正規の予算も執行されないし、部室を持つこともできない。生徒手帳にも書いてあるわよ」 「あ、でもさ、5人以下のクラブって他にもあるやんか。部室も持ってるし」 「そうよね、だからそういうクラブ全部に申し渡してるの。演劇部が最後」 「で、でもさ、すぐに出ていけ言うのんは、ちょっと横暴なんとちゃうかなあ」  啓介は負けずと腕を組んでみたが、うっかり左腕を上にしてしまったので調子が狂う。啓介は、いつもなら右腕を上にしている。 「そんな対立的に受け取らないでよ。掛けていいかしら?」 「あ、ああ、どうぞ」  啓介は、机の向こうの椅子を示した。 「どうも」  美晴は椅子に手を掛けると、ガラガラと押して、啓介の目の前にやってきて足を組んで座った。 「あ、えと……」 「演劇部は、もう4年も5人を割っているの。それを今まで見逃してきたんだから、寛容だとは思わない?」 「え、あ……オレが聞いたのは初めてやから」 「去年の春にも申し入れてある『部員を5人以上にしてください』って。それで知らないって言うのは、そちらの問題じゃないかしら」 「いや、でも……」 「ほら、これが申し入れをしたって記録。先代部長の中沢さんに伝えてある」  美晴はタブレットの記録を見せた。 「中沢さんて、去年の5月に転校していったから」 「そうね、5月31日。申し入れは4月の20日だったから、十分申し次はできると思うんだけど」 「え、記録残してんのん?」 「あたりまえでしょ。ねえ、空堀高校って伝統校だから、形骸化したものが沢山残ってるの。そういうものを整理して、ほんとうに伸ばさなきゃならないところに力を入れるべきだと思うのよ。学校の施設も予算も限りがあるんだから……でしょ?」  美晴は微笑みながら啓介の目を見つめた。チラリと八重歯が覗く。 「……フフ、いまわたしのこと可愛いって思ったでしょ」 「え、いや……はい」  こういうところ、啓介にも美晴にも共通の愛嬌がある。 「うん、可愛い顔したもんね。というのは、まだ余裕があるから」 「余裕?」 「連休明けまで待つわ。生徒会としても伝統ある演劇部を同好会にはしたくないの。がんばってね。言っとくけど幽霊部員はだめだからね。兼部していても構わないから、日常的に活動する部員を集めてね。部室の明け渡しとかは、その結果を見てということで……」 「あ、ああ」 「じゃ、わたしはこれで」  美晴はロングの髪をなびかせて立ち上がり、形よく歩いてドアに手を掛けた。 「あの……もし集められなかったら?」 「部室明け渡し。で、わたしは……こういう顔になるの」  振り返った美晴は八重歯が二本剥き出しになり、夜叉のような顔になっていた……。
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