6 ああ演劇部!!・1 

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6 ああ演劇部!!・1 

オフステージ(こちら空堀高校演劇部)6 ああ演劇部!!・1                       なんと掲示板に貼り出されていた。  以下のクラブは部員数を5月12日までに規定の5人以上にならない場合同好会に編入する。  演劇部 新聞部 社会問題研究部 上方文化研究部 園芸部 薙刀部 ワンダーフォーゲル部  生徒会規約により、同好会に編入された場合、予算の執行を停止し部室を明け渡すものとする。                  空堀高校生徒会会長 瀬戸内美晴 「うわ~~~~~~~~~~~」  演劇部部長の小山内啓介は、盛大なため息をついた。  このため息が図書室にいた沢村千歳とシンクロしたのだが、この物語における自分の役割を認識していない二人に自覚は無い。 「そら大変やなあ……」  セーやんは後頭部で後ろ手組み、脚を突っ張って椅子をギシギシ言わせながらのけ反った。セーやんが気乗りしない時の癖である。 「名前貸してくれるだけでええねん、頼むわ」  啓介は、のけ反ったセーやんの顔を覗き込むようにして食い下がった。 「ちょっと、ツバかかるやんけ」 「ああ、すまんすまん」  啓介はハンカチを出してセーやんの顔を拭いた。 「ちょっと、止めてくれ。男のハンカチで顔拭かれたない!」 「すまん、そやからさあ……」 「ケースケ、ちょっとミットモナイわよ」  訛のある標準語が降ってきた。振り向くとミリーが腕組みして立っている。 「え……」 「ケースケの演劇部って部室が欲しいだけでしょ。たった一人で広い部屋独占して、演劇なんてちっともしてないじゃん。生徒会が言うことのほうが正しいよ。みんな知ってるから、誘いにのらないんだよ。ケースケ見ていると日本男子の値打ちが下がるよ」  ブロンドの留学生は手厳しい。 「いや、俺は目覚めたんや! これからは伝統ある空堀演劇部の灯を守るために精進するんや!」 「ショージン?」  むつかしい日本語は分からないミリー。 「えと、Do my best!や!」 「ケースケ、窓から飛んでみるといいよ」  ミリーは傍の窓を目いっぱいに開いた。 「飛べるわけないやろ」 「ケースケ軽いから飛んでいくと思うよ」 「ウヌヌヌ……」  休み時間の教室に堪えきれない失笑が起こった。 「ミリーも辛らつやなあ……啓介も突然部室の明け渡し言われてトチ狂うとんねんで。まあ、これが刺激になって部活に励みよるかもしれへん」 「トラやん、おまえこそ心の友や! やっぱり演劇部入るべきや!」 「それとこれは違う。お手軽な身内から声かけるんと違て、せめて中庭とかで基礎練習してアピールしてみろよ」 「え、あの意味不明な『あめんぼ赤いなアイウエオ』とかお腹ペコペコの腹式呼吸とかか?」 「そや、そういう地道な努力こそ大事やと思うで」 「そうだね『隗より始めよ』だね」 「なにそれ、ミリー?」 「ことを始めるには、つべこべ言わないで自分からやってみろって、中国の格言だよ」 「……ミリーの日本語の知識は偏りがあるなあ」 「なに言ってんの、去年の古文で習ったでしょ?」 「え、習た?」  墓穴を掘りっぱなしの啓介であった。  いいかもしれないなあ――千歳は思った。  学校を辞めるにしろ、なにか口実が欲しかった。  入学して一カ月余りで辞めるには、致し方なかったという理由が欲しかった。それはもう仕方がない、千歳はよくやったという状況で辞めるのがいい。  演劇部が、それにうってつけだと千歳は思い始めた……。
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