プロローグ

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 午後十時、奈々葉は社の裏通りにある小さな居酒屋にいた。    カウンター席で、里井がコップ酒を煽っていた。午後七時頃に社を出たので飲み始めてから優に二時間は経つ。    菜々葉もそこに付き合わされていた。    奈々葉がコップに入った氷入りの水を里井の前に置いた。   「身体、壊しますよ。部長……」   「ベーろおお! ひっく……じょーしに水なんか飲ませんじゃねえよお」   里井は奈々葉の顔も見ず、手でコップを振り払うとガラスのカップが音を立てて床に飛び散る。    慌てた様子で女性店員が様子を見に出て来る。その手にはモップとホウキを手にしている。店員は「何とかしてくれ」と言わんばかりに菜々葉を見ていた。   「もう、もういい……もう終わりっ!」    奈々葉は唇で「ごめんなさい」と言いながら、手のひらを合わせ、何度も彼女に頭を下げた。 「オヤジ、さけ、酒、もお一本っ……」    ――もう、部長、酒グセ悪い!   「すみません、いえ……も、もう……お会計……お会計お願いします」   奈々葉はカウンターの中の店主に手のひらを見せ、顔を左右に振った。   「ああ、宮崎?、ミヤザキちゃんっ……分かって、分かってくださいよ。俺の気持ちをさあ……」   「ハイ、ハイ……帰りましょ。私、送りますから……」    奈々葉はスマートフォンでタクシーを呼んだ。   :   「いいよ……おれ、じぶんで……かえれますから……。おまえは、もうかえれ。めいれいだ。ぶちょうのめ、い、れ、い」   「はい、はい。分かりました。里井部長」    里井をタクシーに押し込んだ。奈々葉も一緒に乗り込む。
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