悶々した気持ちで

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悶々した気持ちで

 奈々葉は悶々としていた。それは痒い所に手が届かない、という感覚に似ているような気がする。  人肌恋しいというのはこのことかもしれない。  その日、奈々葉は残業せずに事務所を出た。  彼女が降りる駅より三つ手前の駅にの降り立ち、「○○プラザ」という地下街に入った。  打ちっぱなしのコンクリートには剥き出しの排気口で薄暗く、少し揚げ物のような臭いが篭っている。その縦横には飲食店街、専門店街と書かれており、奈々葉は飲食店街に入った。そこは所々閉店の張り紙がしてあり閑散としている。  飲食店街の一番奥の出口の階段付近にイーゼルに飾られた雑貨店風の手描き看板があった。アジアン系の雰囲気の入り口とは不釣り合いな〈リラクゼーション〉と書かれた看板には女性らしいまん丸い字体のポップ文字が施してある。  奈々葉は店内に入った。吸い込まれるように……。 「いらっしゃいませ。どうぞこちらへ……」  その落ち着いた感じからすると三十代と思しき女性が、店の奥に案内してくれた。  二畳ほどのその部屋は薄い水色のカーテンで仕切られていて、真ん中の廊下を挟んで左右に一部屋ずつある。奈々葉はその右側の部屋に通された。 「それでは、これに着替えて少々お待ち下さいね」  奈々葉はバスローブと紙の素材で出来たビキニタイプのショーツ、そして籐で編んだ籠を手渡された。 「あ、あの……ブ、ブラジャーも……ですよね?」 「はい……ブラジャーも……です」と、言って女性は白い歯を見せた。  奈々葉は言われたとおり、バスローブの下は紙素材のショーツだけになった。自分の粘りで汚れたショーツは丁寧にたたんで籠の底に入れる。  着替えが終わった頃、白衣の男性が部屋に入った。  細身で長身の彼は小麦色で白衣の下のティシャツから覗く胸板は厚く、袖から見える腕は筋肉の繊維が分かるほどだが、その手指はスラリと長い。ピアニストのようなその指先が丁寧さと繊細さを感じさせる。 「では、こちらを頭にしてうつ伏せになって下さいね? バスローブはお預かり致します」  男性は見た目に反して柔らかい物腰で言った。  言われたとおりにベッドにうつ伏せる。 「失礼致します。あと、足元に毛布を……」  バスローブを脱がされ、足元が暖かくなる。  奈々葉の身体から力が抜けてゆく。眠りに落ちる時のように……。 「では、オイルを塗布しますね。熱過ぎたら、おっしゃって下さいね」  奈々葉の耳元でニチャニチャと粘りをかき混ぜるような音が聞こえる。アロマオイルの匂いに化粧直しのあとに弄った自分の粘りの音が蘇る。 「はい……失礼します」 「あん……」  肩甲骨の辺りが人肌の温度のような粘りに覆われるのが分かる。指先が奈々葉の背筋を滑り、その指は肩、鎖骨、背筋、更には脇腹に滑る。 「凝っていらっしゃいますね?」と、手のひらを滑らせ始める。  奈々葉の身体の奥が熱くなる。身体の奥からゆっくりと熱いものが溶け出すようだ。それに追い打ちを掛けるように男性の指が奈々葉の身体の尻の筋肉の繊維に沿って滑る。
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