悶々した気持ちで

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 午後十時五十七分。    奈々葉は自宅のある駅に降り立った。明かりが消えたショッピングモールを速足で歩いた。    駅の正面にある商店街を右手に見ながら歩く。閑静な住宅街だ。奈々葉の自宅の前には私鉄の高架が通っている以外は静かな場所だ。    交差点の向かい側の角にある「L」という水色の看板のコンビニは、奈々葉の自宅から三十秒くらいの場所だ。何気にそこを覗く。近くに大学があるため若い客で混雑しているそこは、時間のせいか客はまばらだった。    窓際にある雑誌のコーナーに見覚えのある顔が見えた。坂村美希だ。    ――美希、なんでこんな時間に……。    美希の自宅は奈々葉の自宅から私鉄で三十分はかかる場所にあるはずだ。奈々葉は顔を伏せるようにして、自宅に向かった。     ✣      自宅の玄関を開ける。夫の信也はもう寝室にいた。落ち着くのか夫婦のダブルのベッドの壁際で寝息が聞こえる。   「あれ……?」    ――誰か来たのかしら……。    奈々葉はそう感じた。理由はないが……。    ――もしかして、誰かと不倫とか……。   「信也さん……」   「ん……ああ、お帰り……御飯チンしてね……」    信也は奈々葉に背を向けて、また寝息が聞こえ始める。    浮気の二文字が菜々葉の頭をよぎった。    ――ないか、それは……。   「うん……ありがと……」    ――自分を棚に上げてる……私……。    奈々葉は洗面所に入った。洗面台のミラーの中の自分の顔を見る。ピンク色の頬、潤んだ瞳が初々しい少女のようにも見えた。    ショーツを降ろして、それを片足づつ抜く。    ――ああ、私……。    白いコットンの生地が半透明の磨りガラスにも見える。そのクロッチに出来た透明な輪ジミが複雑に幾重にも重なっている。    奈々葉は洗濯機に下着を放り込み、そのスイッチを入れた。   ✣    自分の身体を探ってゆく。熱いシャワーを頭から浴びながら……。    右の手が胸の柔らかさを確かめる。吸い付くようなその感触を楽しむ。    その逆の手の中指と薬指が奈々葉のしっとりと滑らかな部分を滑る。指の先にハチミツのように粘りが集まる。    ――ああ……。んん……。    艶めかしい声を漏らしそうになって唇を結んだ。    中指の先がプルンとした肉の芽を捉える。痛いような気持ちいいような感じが背筋を駆ける。    今朝の里井との出来事が奈々葉の脳裏で再生された。    ――ああ、部長、部長……。    奈々葉の指に里井が降りてくるような気がした。    奈々葉は身体をくの字に曲げて、自分のぬかるみの中心に突き立てる。里井の指に変わった自分の指先を……。奥に……。更に奥に入ると、ウネウネと動いて熱くねっとりとしたモノが指にまとわり付く。    眩しい光が奈々葉の目の奥でフラッシュした。   「ぶ、部長、部長んん、ああ……んん。クゥ……イク……イク……」     心臓がパンクしそうだった。底のない場所に落ちてゆく夢を見た後のように……。    グチョプチュという淫猥な音と、奈々葉の艶めかしい声がシャワーの飛沫に溶ける。    奈々葉は膝から力が落ち、膝から崩れ落ちた。  :   「ふう……」    奈々葉は重い身体をベッドに投げ出した。夫の信也が寝息を立てる横で彼に背を向ける。    タオルハンカチが見えた。美希から借りた物だ。それがベッドの脇に無造作に投げ捨てるように置いた自分のバッグから覗いていた。    ――ああ、私は……。    罪悪感に襲われる。    タオルハンカチに着いた赤い色は、奈々葉が今朝つけた口紅だ。   「あ、美希のハンカチ……洗濯して返さなきゃ……」
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