部長室

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 十分ほどして、奈々葉は再び部長室の扉を叩いた。来客用の盆に載せたインスタントコーヒーの入った小瓶と一組のマグカップ、そして急須を携えて……。   「あの……」    奈々葉はコーヒーの粉を入れたマグカップに湯を注いだ。    コーヒーの香りが部屋に広がる。   「ホント、ホントにインスタントですよ? 熱いので気を付けてくださいね……」    ズ、ズ、ズ……。    里井がデスクの角に腰を掛け、黙ってコーヒーを啜る。   「ああ、これ、これ……」    里井がコーヒーカップを覗き込む。   「宮崎のコーヒーさあ、俺、元気出るんだよ。ほら……お前も一口……」    里井がまたコーヒーを啜って、奈々葉にカップを手渡す。古い映画で耳にした間接キスという言葉を思い出した。    ――これが間接キス……?    奈々葉もコーヒーを啜る。    ――きゃあ!   「お前も、ちっとは元気になっただろ?」   「えっ……?」   「よかったじゃん。宮崎、お前この部屋に入ったとき、目は腫れてっし、顔色わりーしさ……」    里井の顔が滲んで見えた。里井の大きな手のひらが奈々葉の頭を包み撫でる。   「部長……?」   「これじゃあ、セクハラだよな……。髪もバサバサにしちまったし……」    奈々葉が顔を左右に振る。また、涙でコーヒーカップが滲んだ。   「部長、私……部長が……部長を……」    奈々葉は里井の腕を引き、彼を抱き締めた。    ――私が部長を元気にしてあげたい。  ✣
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