4人が本棚に入れています
本棚に追加
ダンジョンは稼げるのか?
ここで少しダンジョンが出土したことで生まれた需要と共に発展した技術について話そうと思う。
まずはカメラだ。1人1台手のひらサイズのパーソナルコンピュータ、つまりスマホを持つようになってフィルムカメラは衰退した。特にこだわりなく記念に取るだけであればケータイに内蔵されたカメラで十分であり、その技術は新機種が登場する度画質を向上させている。打開策としてフィルム会社はダンジョンから発見されるレアメタルを加工し、特殊なインスタントカメラを冒険者用の便利アイテムとして売り出した。
このカメラの何が特別なのかと言うと、被写体の魔力量が測れるのだ。後述するが、ダンジョン内で発見される特殊な金属があり、それが魔力に反応することを利用し、肉眼では分からないオーラや属性などが色や形で、簡易的ではあるもののおよそ30秒で計測出来る優れものだ。しかし、それも今ではダンジョンレアメタルをふんだんに使用した専用タブレットで、より詳細な数値がわかるようになったが、あまりにも高価で一般への普及は少ない。
手頃な値段で計測も比較的早く入手のしやすさでフィルム会社は再び息を吹き返した。低迷期に化粧品も開発していたらしく、そちらの売り上げも順調のようだ。
次に、モンスター食。これは少々特殊な例だが、ダンジョンに来たらコレを飲め! と言われるのが“スライム水”だ。
日本最初のダンジョン。その1回層に現れるのが動く水のようなモンスター。通称スライムだ。某シリーズマスコットキャラクターのように頭の先がとんがった雫型の青くて笑っているようなとぼけたような愛嬌のある顔のモンスターではなく、その姿は無色透明。形も様々で、撥水性のある布の上に一滴落ちた水のように丸い形から、時には馬などの動物、またある時は美しい女性を模ることもある不定型なモンスターで、一見ただの水溜りのようにダンジョンの地面に動かずじっとしていることの方が多い。そのため、何も知らない初心者はうっかりスライムを踏みつけ捕食されてしまう。しかし、安心してほしい。スライムが生きた人間を完全に溶解してしまうまで24時間を要するのだ。誰が調べたのか、調べておらず都市伝説でしかないのか根拠は不明だが、そもそも死ななければスライムは容易に倒せる。“カナヅチ”さえ持っていれば。
スライムには弱点の核が必ずその体内に存在する。外側から叩いたり斬りつけることは初心者の内は難しいかもしれないが、スライムの体の内側に直接入り込み、核をしっかりと掴んで金槌で叩き割れば一撃で倒すことができる。さほど多くないが2匹以上のスライムが合体でもしたのか核が複数あるタイプも存在するが、倒し方は変わらない。
スライムの最も容易な倒し方は、全身スライムに浸かって中で金槌を振り回す。その様子がキリスト教の“洗礼”と似ている、初心者は必ず通る道だ、として日本の冒険者の間では“洗礼”と呼ばれている。そして、泳げなくても慌ててはいけない。入り口付近のスライムは比較的小さいので、足は着く。もっと言えば飲める。スライムは核が本体であり、核の周りに水分をまとっているに過ぎない。その水を商品化したのが“スライム水”である。
勝手に腹の中で動き出さないか? と心配する者もいるだろう。確かに、体の水分を鞭のように使ったり、水鉄砲のように吐き出す個体もいる。だが、商品化されたものは皆、核を破壊された“元スライムの水分”である。劣化が早く討伐後6時間ほどで劣化が始まるが、新鮮なものは不思議なトロミとほのかにフルーツのような甘味があり、タデ食う虫ではあるがダンジョン名物として近隣の飲食店では“スライム水”をそのまま販売したり、フレーバーを追加したスライムドリンク、または料理やデザートに商品展開している店舗もあるほどだ。
ちなみに、冷凍しても劣化が多少遅くなる程度で12時間ほどでただの水に変わる。腐るわけではないようだが、“スライム水”としての価値は失われる。そのため、ベテランとなり“洗礼”を受けずスライムを倒せるようになっても飲むものや、わざと浴びる者も中にはいる。
スライム討伐は攻略法こそあるが、対策無しでは必ずと言って良いほど洗礼を受けることになる。と、言うのは、スライムは遠距離でも近距離でも外から攻撃を受けると飛散しやすい特徴があるためだ。手応えも水風船に似ている。そのため、スライム専用に傘の形の武器が販売されている。
最初のコメントを投稿しよう!