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はじめまして。突然ですが、
あなたはトマトがこわいと思ったこと、ありますか。
そう、トマト。
学名は Solanum lycopersicum 。英語では Tomato で、南アメリカのペルーやエクアドルみたいなアンデス山脈高原地帯を原産地とする、ナス科ナス属の植物。また、その果実。多年生植物で、果実は食用として利用される、緑黄色野菜の一種。
辞書さん、ありがとう。そう、そのトマトだ。
あなたがトマトに恐怖を感じたことがあるのなら、きっとぼくの話を信じてくれるだろう。
もしトマトに恐怖を感じたことがないのなら……、どうしようね……、うん、あなたの周りにいる、やたらとトマトを気にかけている人に関係のある話だと考えてくれ。いるだろう? そういう人。いない? そうか……、きっとこれから出会うはずさ! 少なくともあなたは、こうしてぼくを知ることになったんだから。これは本旨から逸れるけど、読んでくれているあなたにアドバイス。「まんじゅうこわい」って話を知っているかい? 一応確認しておくといい。
こほん。さて、これからするのは、ぼくに起こったほんとうの話。
言っとくけど、作り話なんかじゃないんだからな。
トマトが大好物で食べさせてくれって話でもないぞ!
今よりずっと幼かったころ、ぼくはトマトのことなんてちっとも怖くなかったんだ。それどころかトマトについて深く考えたこともなかった。
あれはぼくが小学三年生のときの給食の時間。
「トマトなんてきらいだ! ぜったいいや! 名前を聞いただけで吐いてしまう!」
そう言ってトマトを残す男の子がいたんだ。
ぼくは家族から「好き嫌いをしてはいけない」と言われて育ったから、その子の行動を見過ごすことができなかった。食べられない体質の人がいるって知らなかったんだ。
そのときのぼくは何をしたと思う?
ぼくは友だちに混ざって、その子に向かって「トマト」を連呼したんだ。
少し誇張表現の過ぎる子だったから、名前を聞いただけで吐くなんて嘘だと思って。
結果、その子はほんとうに吐いてしまった。
ぼくは、しまった! と思った。先生に怒られてしまう!
結局、ぼくが先生に怒られることはなかった。軽い注意で済んだのだ。
先生もまさかそんなことで吐いてしまう生徒がいるとは思わなかったのだろう。
今思い返すと、あのころのぼくはなんて愚かだったのだろう。あの先生も危機感が足りない。
あのトマト嫌いの子は、きっとトマトの恐ろしさを知っていたのだ。
惜しいことをした。今ごろぼくの戦友となっていたかもしれないのに。
それからから数年後、ぼくは中学生になっていた。
勝手な思い込みで可哀想なことをしてしまった罪悪感を、変わったクラスメイトがいたな、という気持ちで正当化し、記憶の渦の奥深くに埋もれていたころ。
その日の夕飯は、オムライスだった。
ケチャップご飯にふんわり卵、そのうえにまたケチャップ。
愉快な母は、いつも何かしらの絵や文字をケチャップで描くのだが、その日のぼくのオムライスに描かれていたのは、「TOMATO」だった。
だからだろうか。その夜、トマトの夢を見たんだ。
結果としてぼくはそのとき、トマトたちの恐ろしい計画を立ち聞きすることになった。
戦いのはじまりはあの夜だったのかもしれない。
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