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屋上での秘密
「燐ちゃんって見た目の割に声低いよねー」
「そうかな……? 結構高くしてんだけどな。まぁもっと低い声も高い声も出るんだけど」
僕はクラスメイトの美歌ちゃんに話しかけられた。僕の声のことでだ。僕は急に話しかけられたことに少し戸惑いも感じながらも返答する。
美歌ちゃんは多分見た目は女の子なのに声はどっちともつかないような声に違和感を抱いているのだろう。
性同一性障害の僕が、いや、僕だけじゃなく、性同一性障害やXジェンダーの人が大事にするのは「声」と「見た目」だ。
「声」については、僕みたいに中性的な声で話す人とはっきりと分ける人がいる。見た目も同様だ。
美歌ちゃんは僕の性別をどっちだと思っているのだろう?
まぁ、それは置いといて。
僕はこの間のことがずっと気になっていた。
名前もまだ知らない不思議な女の子の先輩。緊張してしまって思わず名前だけ名乗って相手の名前も聞かずに去った僕。 我ながらアホだな……。
「美歌ちゃん……僕トイレ行ってきてもいい?」
突如の尿意に襲われた僕はトイレに行くためにそっと立ち上がる。
「あ、待って、私もいく!」
「……え?」
「ほら、何してるの? 行こ!」
美歌ちゃんに断りを入れようと思っただけなのに何故か一緒にトイレ行くことになってしまった。え、いや、僕まだ体男の子だよ?
美歌ちゃんに半ば引きずられながら教室を出ると例の女の子の先輩がいた。思わず胸が高鳴ってしまう。好きでもなんでもないはずなのに。
「あ、いた! 燐くん! お……私の事覚えている!?」
女の子の割に少し低めで落ち着くような声。必死に僕を探していたのが伝わる息の上がり方。
先輩、あなたは一体誰なんですか?
「あー、この間の先輩……えっと」
「私の名前は悠里。神崎悠里」
「……悠里先輩」
にこり、と笑って名前を告げる悠里先輩は眩しかった。
なんだか不思議な人だな。僕は内心のそんなこと思うと、とりあえず先輩に断りを入れて御手洗に行った。美歌ちゃんに盛大に勘違いされたのはまた別のお話。
戻ってきたら僕は先輩に声をかけ、話すために別の場所に移動することになった。
「あ、話すのに最適な場所があるんだ。着いてきて」
「わかりました」
着いた場所は屋上だった。屋上と言えば恋愛漫画とかでよく出てくるけど実際の屋上は進入禁止なところが多いから入れるのが以外だった。……一応聞いてみるか。
「あの、悠里先輩。屋上って入ってもいいんですか?」
「えっ……い、いや、まぁ、うん!」
あ、察した。これは本当は入ったらダメな場所だ。……だが今はどうでもいい。僕は悠里先輩と話がしたいのだ。
まず、悠里先輩はどんな人でどんな性格なのか知りたい。
ねぇ、悠里先輩。君は一体どんな人なの?
「燐くん。率直に聞くね?」
「はい」
「君はなんで女の子の服を着ているの?」
確かに率直だった。僕の体の性別が男の子だと知ったとしても中聞けないことだ。
僕は先輩の勇気を賛して素直に答えることにした。それは、僕が──……。
「僕が性同一性障害だからです」
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