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「佳子ちゃん、だっけ? いくつ? アタシはまおみって言うの」
「はい、十八になりました」
佳子は答えた。
「やっぱりね” アタシと近いんじゃないかって思ったわ! アタシ十七だもん」
「じゅう、なな?」
佳子は思わず口をついた。
近いといえども、下とは思わなんだ。
「若いんですね」
「若いって、一つ違いでしょ? アタシは高校行ってないけど、佳子ちゃんは行った?」
まおみの問いに、佳子はうなずいた。
「大学は行かなかったの? それとも夏休み?」
「辞めちゃいました」
「もったいないねえ!」
近所のおばちゃんと話しているときと同じような空気だった。
「まおちゃん、佳子さんに仕事の流れを教えてあげてね。佳子さんは今日は主に、配膳をお願いするから、食器の戻し方とか色々、教えてあげてちょうだい」
若女将が布暖簾から顔を出した。
「よろしくね」
若女将は佳子の顔を見つめて微笑んだ。
佳子は頭を下げた。
夕方の作業は怒涛だよ、と教えてくれたまおみは、業務の流れを教えてくれた。
ここから階段を上がって、食事を並べて、ここから下りて食器をここの厨房に返して、と実際に階段を上り下りして教えた。
狭い階段では、人と人がすれ違うことが難しい。
「ガミちゃんと出くわすと、あんた! 邪魔! って言われるから、避けるはめになるけど、我慢ね」
まおみが踏むたびにギシ、ギシと軋む階段。
「あの人だけだから、難しいのは。だから辞めないでいてね」
まおみは佳子の顔を見て、「お願い」と言う。
「がんばります」とは答えたものの、佳子の気はちょっと重かった。
階段の上り下りのしんどさ、『厨房の人が、残ったおかずをゴミ箱に綺麗に入れてから返さないと怒鳴るから』という注意。
そしてガミにいびられるのかと思う憂鬱。
でも、まおみがいたので良かった。それが大きな救いだった。
夕方の作業開始まであと一時間。
まおみに連れられて、寮まで歩いた。
温泉街、お土産屋さんを抜けて十分ほど歩くと、アパートのような寮があった。
一階はスナックで、その二階だった。
「ここが佳子ちゃんの部屋ね」
鍵を渡される。
鍵を開けて部屋に入ると、八畳ほどの部屋があった。
畳まれた敷布団、掛け布団、枕の寝具一式。床はちょっと黄ばんだ畳。窓はステンレスが錆びかかっている。
台所はあるが、浴室はない。
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