七日間の夏

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「お風呂は、旅館で入るの。お客さんがいないような時間を見計らって入って、寮に帰ってくるの」 まおみは台所の蛇口をひねり、しばらく水を出した。ダダダダ、と勢いのいい水がシンクを打つ。 「もったいないけど、少しのあいだ使ってないから、錆びてるといけないから」 と言う。 トイレへ行き、流してみた。 「大丈夫だね」 と、言って、「アタシの部屋は隣ね。来る?」と佳子を振り返りながら訊いた。 佳子がうなずくと、まおみは着物の袖のなかに入っている鍵を出した。 まおみの部屋は、すっかり一人暮らしの女の子の部屋に改造されている。 同じ作りでも質素で寒々しい佳子の部屋とはまったく別のものになっている。 人が居つかない部屋の雰囲気は寂しい。 まおみの部屋には、キティちゃんの顔の小さなテーブル、ピンクのカーテン、蒲団カバーも花柄に替えて、華やかだった。 まおみは薄い黄色の小さな冷蔵庫から飲み物のパックを出した。 乳酸菌が含まれているたぐいの、乳白色のジュースだった。 花柄のついたガラスのコップに注ぎ、佳子に差し出す。佳子は「ありがとう」と受け取り、窓辺に腰を下ろした。 まおみは丸くてぽっちゃりとしているせいもあるが、年上に見える。 何か話が弾むと、 「おっかしいぃ」 と目に涙を浮かべて白いハンカチで目の際を拭く仕草なんかは祖母にそっくりだった。 「まおみちゃんは大人びてるね」 佳子は呟く。ガラスのコップのなかで、自分の声が少し響いた。 「老けてるって言われる。昔、ガミちゃんにもよく意地悪言われたよ。ババアって。おばあちゃんに育てられたからとか、関係あるかな」 まおみは飲み物を煽った。 コップには黄色の見たことがないような花の絵柄がプリントされていた。 「お母さんは男の人と一緒にどっかで暮らしてるって。でも、それもダメになって別の人と結婚してどうのっておばあちゃんは途中まで話してくれたよ。 でも結末まではよく分からない。今のことも、分からないの」 佳子は何と言っていいのか分からず、うなずいていた。 「でも、アタシは結婚は一回だけするの。ずっと同じ人とする。別にお金持ちじゃなくてもいいけど、不幸な子みたいな感じからは脱出するよ」 まおみは空になったコップをテーブルに置いた。 「不幸な子なんて、決めつけられるのがイヤだったから、それはもうおしまいにしたいの」 佳子は思わず言った。
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