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「それがおばあちゃんの初恋なの?寂しくなかったの?」
戦争が終わり平和な時間が数十年も過ぎて、私の側には孫がいる。新たな出会いを経て授かった宝だ。
「寂しかったよ。泣いて暮らしたよ」
「だよね。好きな人と一緒にいたかったよね。おばあちゃん、可哀想だよ」
「そんなことはないさ。その別れがあったからあなたに会えたのだから。別れは真心の愛なんだよ。私が忘れないように保志兄さんも忘れないよ。できない約束はしない人だからね」
「変なの。おばあちゃん、花言葉のお話して!たんぽぽ以外も知りたい!」
「そうね」
そう呟いて窓の外を見れば夕焼け。あの時ほど赤い夕焼けを目にすることはないだろうが、穏やかな夕焼けのほうがずっと優しくて素敵だ。二度と会えぬ別離より明日また会える別離がいい。
本棚から花言葉の本を取り出して開く。私は今を生きながら。
了
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