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エヌ警部は部下の突然の名推理に面食らうと同時に、どうして新種のバクテリアなどという眉唾なものの存在をすぐに信じられるのか気になった。そのことを尋ねると、
「実は、噂に聞いたことがあるんです。あの香水会社の社長は、魔法の力で香水を生み出している、と。なるほど、そういうからくりだったんですね。どうりであの会社が儲かるわけですよ。だって、自宅で蛇口を咥えているだけで高級な香水が手に入るんですからね、楽な商売もあったもんですよ」
まったくだ、とエヌ警部は心から思った。こちとら昇進して稼ぐために、事件のたびに頭をフル回転させて名推理を閃いてきたというのに。
そのイカサマなバクテリアのせいで、部下に美味しいところまで持っていかれてしまった。
「エヌ警部、今回は僕の勝ちですね」
部下の刑事がいたずらっぽく言ってくる。悔しいが、そのようだ。そう納得しかけたところで、素晴らしい閃きが起こった。エヌ警部はにやりと笑って言った。
「……いや、そうとも言えない。この勝負は引き分けだ」
「なぜです」
諦めが悪いですよと言わんばかりの刑事に、エヌ警部は今日一番の得意顔で答えた。
「私は、被害者が工場で死んだと推理しただろう?あの推理は正解だったよ。なぜなら、被害者自身が、あの香水会社の工場だったんだからね」
刑事は呆れたように、お手上げです、と笑った。
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