匂う魔女

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「妙なこととは、なんだ」 事件に妙なことはつきものだ。そう心得ているエヌ警部は冷静に尋ねたのだが、次の言葉を聞いて、医者同様に困惑する結果となってしまった。 「それが…溺死したこの女性の胃袋の中には、当然飲み込んだ水が溜まっていたのですが…その水がですね、やたらといい匂いがすると思ったら、ただの水じゃないんです。香水なんですよ、それもかなり純度の高いもので。たまたま入った一滴が水と混ざったとかではないと思われます」 電話を切ったエヌ警部は、ううむ、と唸った。 「なんということだ。被害者は香水を飲まされたのか…?」 「この家にある香水の量を見れば、十分あり得ますね。水責めのように香水を無理やり流し込んで、窒息死させた。全くひどい犯人ですよ」 刑事もその仮説を支持したが、言い出したエヌ警部は首をかしげた。 「だがそれなら、なぜ浴槽に水を張る必要があった?香水だけで窒息死させるなら、水は必要ない。また水を張ったなら、そこに顔を突っ込ませて殺す方が遥かに簡単だ。これは一体……犯人の意図がまったく分からん」 それを聞いた刑事は思い出したように言った。 「そうだ、その浴槽の水なんですが、わずかに香水の匂いがしましたよ。よく顔を近づけないとわからないレベルの匂いだったので、おそらくほんの少量が溶けていたのだと思います」
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