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俺は斜め後ろに座っているワタナベを振り返った。彼は何も聞こえていないかのようにボーッと座っていた。きっと、あまりのことに心が凍り付いて動けないんだと思った。
個人についてクラスで話すなんて、いくら何でもヒド過ぎると俺は思った。俺だったら、そんなこと言われたら今すぐ帰る。しかも、良識のないガキが提案するならまだしも、先生から、そんな提案をするなんて、俺は許せない気持ちになった。
俺は休み時間、先生に抗議した。
「先生の目的はわかりませんが、ワタナベの気持ち考えたら、そんなこと絶対にやめてほしい。もし先生が、どうしてもワタナベについて話し合うのをやめないなら、俺はその時間をメチャクチャにしてやる。」
先生は大人だから、俺の言葉を聞いて笑った。
「何をそんなにムキになってるんだ。ワタナベが臭いままだと、みんな迷惑してるんだ。おまえだって、そうだろう?席替えするのも大変なんだ。」
「席替え? だったら俺とワタナベで一番後ろに座ります。」
「だからさ。そういうことじゃ根本的な解決にならんだろう?」
「じゃあ、話し合ったら根本的に解決できるんですか?アイツの家に風呂なんてねぇし。アイツが臭いのは自分のせいじゃないんだ。どうすりゃいいってんだよ。先生、頭おかしいんじゃねぇか?」
俺は興奮して叫んでいた。
先生は少しだけ戸惑った目をチラチラさせたが、落ち着いた口調で
「まあ西、おまえは黙っとけ。変にゴチャゴチャ言ったら、おまえまで村八分にされるぞ。」
と言った。村八分、という言葉を俺はその時、初めて知った。先生が村八分と言ったから、すぐ国語辞典で調べたんだ。
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