第1話 辺塞は寧日ばかり

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 城砦の前にあるこじんまりした広場に、カルヴィン一行は臨時の市場を開いていた。  都市部で流行りの布や書物、珍しい異国の食べ物、武器の手入れ道具などさまざまなものが売られている。  リカードはのんびり歩いて、兵士たちと談笑しているパサパサした明るい麦色の髪をした男に近付いた。彼がこの一行の若き頭領、カルヴィンだ。歳は二十代半ばに見える。  リカードに気付くと、彼は手を挙げて気さくに声をかけた。 「やぁ、マクラウド大尉! 新しい本を仕入れてきましたよ」 「久しぶり。元気そうでなによりだ。どんな本かな」  カルヴィンは荷馬車から数冊の本を下ろしてきた。 「こっちは、前にお売りした推理小説の続編。ほかにも面白そうなのをいくつか」  リカードは本を手に取り、パラパラとめくった。あとがきもちらりと読んでみる。 「うん、君のおすすめなら間違いないだろう。この三冊をもらうよ」 「はい、毎度あり!」  革袋から銅貨を取り出して、代金を支払う。  それを受け取ったカルヴィンは、「そういえば」とややわざとらしく咳払いした。 「ちょっと珍しいアイテム入ってますけど、ご覧になります?」  リカードは喜んで見せてもらうことにした。  カルヴィンが取り出したのは、銀色に光る、布のような鎖帷子(くさりかたびら)のような変わった物体だ。 「わぁ、なんだい、これ?」 「(みずち)のうろこでつくった雨具です! 珍しいでしょ」  厚手の布の大部分に銀色に輝くうろこが縫い付けられ、ピカピカとまばゆい光を放っている。合羽(カッパ)のように頭からかぶって装着する雨具のようである。 「脱皮したうろこで作ったそうですが、雨も泥もはじいてくれる優れもの! 大尉には世話になってるから、特別に安くしときますよ~」  近くで靴紐を見ていたアザドが「誰にでも言ってるんだろ」と呟いたが、リカードもカルヴィンも耳を貸さなかった。 「うん。じゃあ、これくらいの金額でいけるかな?」 「いやいや、大尉。いくらなんでも、蛟のうろこですからね。このくらいで……」 「私と君の仲だろう。このくらいでどうかな……」  というやりとりが続き、最終的に双方納得のいく金額で売買は成立した。 「お前、これいつ使うつもりだ……?」  アザドが呆れたように銀色のうろこをつついているが、リカードはご満悦だ。 「ありがとう、カルヴィン。いい買い物をしたよ」 「はい、またごひいきに!」  カルヴィンは明るく答え、別の客に別の品物を売るために歩き去った。
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