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その背を見送るリカードに、アザドが声をかける。
「お前、司令官室をガラクタだらけにするの、いい加減やめとけよ」
リカードはややむくれた。
「ガラクタじゃないよ。コレクションだ。君の家は、最低限のものしかないから寂しすぎる。なんなら、コレクションを貸してあげるよ?」
やる、とは言わない。あくまで貸すだけだ。それだけ、アザドの言う「ガラクタ」たちをリカードは気に入っていた。
アザドはそっけなく「いらん」と言った。
「余計なものを置く趣味はない。掃除が面倒だ……お前も部屋が散らかってると、女にモテないぞ」
この言葉は、リカードの胸にぐっさりと刺さった。
リカードは多数の女性に好意を寄せられたいと思ったことはないが、今現在、たったひとりの女性から好意を寄せられたいと望んでいた。
彼女は、物の多い部屋が嫌いだろうか。それとも、面白いと言ってくれるだろうか。
真剣に考え始めたリカードに向かって肩をすくめ、アザドも人ごみの中に歩み去って行った。
フリューレンス王国は、三十年ほど前まで、北西に国境を接するヴィッターリス王国と戦争をしていた。現在は休戦協定を結んでいて、リカードをはじめ若い兵士たちは生の戦争を知らない。
ここ、ペスカ・ワッフェル城砦は、国境沿いにある監視用の施設だ。城砦といっても、見張り台がちょっと立派になったもの、という程度で、詰める兵士の数も百名ほどしかいない。石造りの茶色い古びた城壁が、国境を覆う広大な森を見渡す高台に建っている。リカードは、ここに駐留するフリューレンス王国西方軍第三大隊第一歩兵団の司令官だった。
もっとも、それはかなり大げさな表現だな、とリカードは思っている。
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