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軍の末端を構成する小集団の話だ。「隊長」で事足りる。リカード自身、いちおう男爵家の出身ではあるものの、家系は火の車で、裕福な町人よりよほど貧乏くさい生活を送っていた。使用人は、年老いた執事と、同じく年老いた乳母のふたりきり。子どものころは、彼らとともに畑を耕したり鶏を追いかけまわしたりしたものである。三男であるリカードが、男爵家を継ぐことはおそらくない。叙任されて軍に名を連ねたのは、ほどほどに剣の腕が立つからである。
任務と言えば、国境の監視と城砦の修理ぐらいしかないので、剣を振るう機会もなく、武勲を立てて出世する予定もない。
リカードは、それでいいと思っていた。軍人が出世する世の中というのは、争いごとが多く民が暮らしにくい世の中である。自分の部下の中にも、先の戦争で両親を失い、食うために兵士に志願した者たちが多くいる。自分の代で、親を亡くして食べ物に困るような子どもたちを作りたくない。
要するにリカードは、軍隊のしがらみからも貴族の責任からもほど遠いところで、のんびりと昼寝をしたり本を読んだりしながら毎日を過ごしているのだった。
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