カタクリ

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カタクリ

 36:9――それが体温計の示した健康度だ。つい一時間前に測った時より、更に減った。完治したのだ。多分。  しかし、本日が木曜であることと、現在時刻が夜であることから、母に週明けの復帰を推された。またぶり返しては笑えないため、素直に従うことにする。と言うことで、復帰は月曜からだ。  退屈凌ぎにアプリで遊ぶ。頭が空っぽでも出来るアプリだ。指だけ(せわ)しくしながらも、心は香澄を描いていた。  いつかは、彼女も俺も変わってしまうんだろうか。良い親友では居られなくなるのだろうか。それは何だか寂しいな。  軽快な音が鳴り、上部に通知が現れた。反射的にタップする。香澄からのRINEだ。    開くと、可愛い花の写真があった。赤紫色の花である。花としては珍しく、俯き気味な咲き方だ。何だか自信無さげで、学校での香澄を連想させる。 "名前は『カタクリ』。あの片栗粉と関係あるんだよ(笑) 花言葉は『初恋』。可愛いよね"  豆知識に一笑したのも束の間、初恋の文字に心が留まる。 "調子どうですか? 私はちょっと風邪気味かも。でも、高校楽しいから休みたくない~"  学校に対して、ポジティブな意見も珍しい。  もしかして、香澄は誰かに恋したのだろうか――なんて。  生まれた思考に、気付かなければ良かったと後悔した。  ただ無作為に選んでいる可能性もあるが、花言葉を見ると、どうも裏側を考えてしまう。 "もしかして、好きな人が出来た?"  気になって、根拠もなく聞いてみた。  もし相手がいるならば、今まで通りに構いすぎるのも考えものだ。きっと、彼女から拒否は出来ないだろうし。  そんな配慮からではあったが、数秒後、早々後悔した。  既読がついた上で、返事が来なかったからだ。
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