名前のない花

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 朝の空気は、昼よりも少し冷たい。しかし、人や車のない通学路も、時には新鮮で良いものだ。通い慣れていない所為もあるかもしれない。  新しい空気を味わいながら、目的地である学校へ――図書室へ向かう。  あの後も、検索ワードを変えながら、何度かトライしてみた。しかし語句が悪いのか、目標は見付からなかった。  ゆえに、本の方が早いと判断したのだ。高校の図書室だが、花の図鑑ぐらいあるだろう。    学校の門は、既に空いていた。部活動に勤しむ生徒がちらほら見える。運動部(そとで)も、文化部(なかで)も、何人か見た。  通りすがりの人間に、図書室への道を尋ねて進む。辿り着いた時には鍵が空いており、委員らしき女生徒が中にいた。貸し出しカウンターで作業をしている。 「珍しい、委員会の人?」 「あっ、いや、花の本を見たくて。ここって図鑑とかありますか?」 「あるよー。何の花について調べたいの? 分かれば具体的な本も探せるかも」  場所の目星が付いているのだろう。女生徒は立ち上がり、歩き出す。俺も後を付いて歩んだ。 「それが名前は分かんなくて」 「どういうの? 私、分かるかも。花、ちょっとだけ詳しいんだ」 「これなんですけど……」  スマホを鞄から出す。電源を入れると、新着通知があった。香澄だ。  写真の表示を兼ね、新着も確認する。昨日に引き続き、写真だけが送信されていた。  赤い花だ。大きな三枚の花びらが特徴と言えよう。中央部の斑模様が、淡い恐怖を煽った。 「どれ?」  横からの視線に気づく。白い花へと画面を合わせ、生徒へと向けた。さすが花好きだ。早速、頷いている。 「これはゴジアオイだね。前にテレビで見たけど、サイコパスな花なんて言われてるらしい」 「……サイコパス?」  想定外の単語に、不安感を覚えた。香澄が何を示そうとしているのか、全く想像出来ない。  だが、対面前に気付いて欲しい何かが、彼女にはあるのだろう。そう思った。それこそ、ただの勘と言うやつだが。
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