静物

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   二日酔いでズキズキと傷む頭を抱えながら、アパートの自室で幸一が目覚めた時。「それ」はすでに、部屋の中にあった。  幸一が最初に「それ」を見て思ったことは、「やっちまった……」ということだった。二日酔いのはっきりしない頭でもわかるくらいに、「それ」は色鮮やかな色彩を帯びているように見えた。早い話、幸一は昨晩酔っ払って部屋に帰ってきたあと、自室で「吐いてしまった」のだと思ったのだ。  本来なら、朝いちでシャワーでも浴びて、スッキリしたいところだったが。今から「汚いもの」を片付けなきゃならないんだから、シャワーはその後にした方がいいか……。  そう思いながら改めて幸一は「それ」を見たが、どうやらそれは自分が吐いたものではないらしかった。嘔吐物のような臭いもしなかったし、吐いたものにしては、その形が「しっかりとしていた」のだ。そのことは少しだけ幸一をほっとさせたが、しかしそれではまだなんの解決にもなっていなかった。俺の吐いたものじゃないんだとしたら。「これ」はいったい、なんなんだ……? 「それ」は半径20センチほどの綺麗な円形で、円の中央に向ってふっくらと盛り上がっていた。色はあえて言えば緑色で、「それ」の下にある畳がうっすらと透けて見えるくらいの半透明な色彩をしていた。強引に例えるなら、大きな緑色のゼリーが畳の上に置いてあるといった具合だろうか。
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