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「よし、出来た!って…遅っ」
みずきの方を見て笑いながら突っ込む。
「す、すまない…」
「まあいいや、ゆっくり包んでて、他の作ってるから」
アキラはそう言うとキッチンへ入っていった。
まさか誕生日にアキラの家で餃子を包むことになるとは…
予想だにしないことで驚きつつもアキラと触れ合えたことにはとても感謝してしまうみずき…
なんとか出来上がった餃子をアキラが焼いてくれて…
食卓に本日のメニューが並びにはじめる。
焼き飯、餃子、回鍋肉、卵スープ、お酒。
いつもコンビニ弁当なみずきにとってはかなり豪華な食卓だ…
しかもアキラの手料理…
信じられない想いでいっぱいのみずき…
「さ、食べよっか」
アキラは食卓へつきながら話す。
「あぁ…いただきます」
「いただきまーす」
アキラも手を合わせ、食事に手をつけようとする。
「あ、忘れてた」
アキラはふと呟いて、お茶の入ったグラスを持ち…
「みずきも酒持って」
みずきにも勧める。
「あぁ…」
言われるまま酒の入ったグラスを持つ。
「Happy birthdayみずき!乾杯」
そうグラスを合わせてくる。
「あ、ありがとう」
「これでちょっとは誕生日らしくなったかな?」
そう首を傾げ、食事に手を付け始める。
そして…
「みずきの包んだ餃子分かりやすいな」
目の前で、そう微笑んでいる…
可愛いひと…
やはりアキラの食事はかなり少なく盛りつけてある…
気にはなったが、みずきも自分の目の前にある料理たちに手をつけはじめる。
勿体無い気分で…
やはりアキラの料理は美味しい…
心のなかで実感しつつ…
それを本人に伝えようと勇気を出して呼ぶ…
「アキラ…」
「ん?」
「ありがとう…凄く美味いよ」
「そっか、口に合って良かったよ」
「あぁ…ほいこーろーってこういう料理だったんだな…」
豚肉とキャベツがメインの料理だった…
「え?知らなかったのか、日本じゃこれが一般的な回鍋肉だと思うけど…」
「あまり中華は食べないから…言われた時、分からなくて焦った」
「あー、それで答えなかったのか」
「あぁ」
「棒々鶏も知らない?」
有名な料理だけど…と聞くアキラ。
「あぁ…聞いたことはある気がするが…どんな料理かは…」
首を傾げながら素直に答える。
「ただ鶏肉茹でただけの料理だけどな、中華は簡単だからまた作ってやるよ」
「本当か?」
つい喜びがもれてしまう。
「ふ、嬉しそうだな」
「それは…アキラの料理が食べられるなら…」
「別に誰が作っても同じだと思うけどな…」
「いや、全然違うから…俺には無理だし…」
苦笑いなみずき…
「餃子で苦戦してたらなぁ、お前不器用だな」
そう笑うアキラ…
「アキラはなぜそんなに料理が出来るんだ?」
「うーん、早く自立したかったからかな…」
首を軽く傾げて答えるアキラ。
「自立?」
「家事全般こなせてたら一人暮らしできるだろ?」
「…俺は料理できないが一人暮らししているが…」
「はは、お前は職場がコンビニだしな…食うには困らないか」
みずきの言葉に軽く笑いながら続けて話すアキラ…
「オレも中学卒業したら家出て一人暮らししようと思ってたんだけどな」
アキラの貴重な話をみずきは興味を持って聞いている。
「一緒に住んでた弟のコウジも高校は寮入ったし、ユカリさんも病院の近くにマンション買って出たし…結果的に一人暮らしになったからそのまま住んでるけど」
「…ユカリさん?」
気になり呟くように聞く。
「コウジの母親、内科医やってる。オレたち腹違いだから…」
「そうか…」
アキラの母親のことが気になったが…訊くことはできなかった。
「まあ、一人分作るのは逆に手間なんだけどな、作った方が美味いし…」
食卓の皿に手を添えながら話すアキラ。
「今日はお前が食べてくれるから残飯も少なく済みそうだな」
そう笑って食事を続ける…
「……」
余っているなら食べにきたいと思うけれど、やはり伝えることはできない。
自分の想いを上手く伝えられない…
けれど、一緒に過ごせる今をなにより大切に思うみずき…
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