虹の花

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虹の花

 とある森の、小さな池のそばに、美しい魔女が住んでいます。  キノコの形をした家に、数匹のアヒルたちと静かに暮らしていました。そんな彼女のもとには、時折、大事なものを失くした者たちが相談に訪れます。  森全体が深く濃い霧にすっぽりと包まれた、そんな日のことでした。 「まあまあ、まっしろで何も見えないこと」  丸い窓から外を眺めて、魔女は肩をすくめました。  いつもならこの窓からは、瑠璃色の水をたたえた睡蓮の浮かぶ池が見え、家族のアヒルたちが悠々と泳いでいるのですが。  ここ数日、ずっと霧が立ち込めて、木々の緑も水の青も、全てが白で塗りつぶされているのです。 「それにしても、不思議な霧ねえ──まるで、なにもかも呑みこんでしまうような、底しれない霧。外を出歩くのは危険ね」  そんなわけで、アヒルたちもしばらくは、キノコの家の中でのんびりしています。  長い巻き毛の赤い髪をゆらしながら、魔女も気楽に掃除を始めました。小花柄のワンピースの上に、お気に入りのエプロンをつけます。  部屋に飾られた、西洋の女神像や東洋の花瓶の埃を落とします。皮張りの本や巻物を片づけ、箒で床を掃きます。  仕上げに、瑠璃色の睡蓮の池に暮らす錦鯉を描いた水彩画を、金色の額縁に入れて壁に飾りました。  さて、ひと通り掃除が終わり、ロッキングチェアで好きな作家の本を読もうとしたときです。  誰かが家の扉を、ささやかにノックしました。 「はいはい、どなた?」  魔女は、緑のペンキで塗ったドアを開きましたが、誰もいません。  はて、と首をかしげていると、 「あの……ここです」  下のほうから、気の弱そうな、優しい声が聞こえます。
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