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「なんだい、アンタたち! 人の家に勝手に上がり込もうって魂胆かい⁉︎」
紫伯梁は戸口を振り返る。一瞬目を見開き、そして怜華と少年———美鶴の背を押した。
「裏口から出なさい。振り返ってはいけない」
「どういう事? 紫伯兄さ……」
言ったことの理解が出来ず、聞こうとした途端紫伯梁に制される。そして美鶴を見た。
「……美鶴君。僕達を巻き込んだことを申し訳ないと思ってるなら、何も聞かずに怜華を連れて行ってください」
美鶴は首を傾げるが、紫伯梁の目を見て怜華の腕を掴んだ。
紫伯梁は微笑み、踵を返す。
「必ず、また会いましょう」
最後にそう言ったのが聞こえた。
「……行こう」
美鶴の言葉に、怜華は反応できなかった。
紫伯梁の背中で揺れる、結んだ長い髪。
それが全て、紫になったように見えたのだ。
「今の……」
なに? と言おうとした途端、戸口の方から爆発した音が鳴り、頭が弾かれたような衝撃が走る。
「っ……!」
鼓膜が破れたのでは、と思うような痛み。美鶴も耳を押さえている。
痛みが引いて、ようやく物事を考えられるようになった怜華が考えたのは、紫伯梁のことだった。
「紫伯兄さんっ!」
「待て!!!」
走り出した怜華を美鶴が止めようとするが、その手はわずかに怜華の腕を掠めただけで捕まえることはできない。
怜華は勢いのままに戸を開いた。
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