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「……何してるんだ。バカなのか? ここに来るなんて」
振り返ると、美鶴が怜華の後ろで立っていた。
「だって……」
「咄嗟にか? それとも、怖いからか?」
美鶴の目は冷たい。それと比例するかのように、声も冷たくなる。
「俺を追いかけたって、意味はない。俺は、お前の人探しに付き合う気はない」
「おやぁ。お仲間同士で喧嘩かぇ?」
突然の乱入者に、美鶴は振り返り腰につけた双刀に手を掛けた。相手は気味の悪い笑みを浮かべながら、両手を上げる。
「おやおや。もしかして、わしは邪魔だったかの?」
「……何者だ」
美鶴は彼女を見上げ、睨む。怜華は見惚れていた。
鮮やかな、怜凛より長い黒髪が顔の横で揺れている。前髪を後ろに流し、背後の髪は高い位置に一つに結ばれていた。
黒装束の上に白い鶴の刺繍のようなものが施された打掛を着ている。その中に、白い包帯が巻かれているのが見えた。
「わしは……しがない商人じゃよ。名なんてものは無い」
「そんなわけないだろう。ここの遊女か」
美鶴の問いに、彼女はクク、と喉の奥で笑う。その黒い瞳と薄く浮かんだ艶やかな笑みに、怜華は怜凛の少しだけ笑った顔が浮かんだ。
怜凛も、そんな笑い方をする人だった。
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