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「そんな汚い……いや、可哀想な者じゃあない。わしは、檻は嫌いでのぉ。たとえお家の為に売られたとしてもすぐさま逃げ出すわ」
「なら、なぜ女の身でここを歩いている」
「なんでもよいじゃろう。商人なのだからのぉ」
と、突然狂瀾怒濤の勢いで人がなだれ込んできた。
「おっと。これはこれは」
商人と名乗る彼女は飛び退き、身体を揺らす。それに合わせて髪が靡く。
美鶴は、怜華の腕を掴んだ。
「逃げるぞ」
「逃げるよ」
二人の声が重なった。
それを聞いたのか、商人はクスリと笑った。
「お前も笑っている余裕は無いように見えるが」
「あれくらいの追っ手なら、すぐに巻けるからのぉ。それに、意外な助太刀もいるようだ」
月の光が差し込む道裏。
光に照らされ鈍く輝く鎖。
その鎖は、商人が追っ手と言った人々をしっかりと捕まえていた。
そしてその鎖の集まったところに、男物の服を着て、長い黒髪を揺らし笑っている———怜凛がいた。
「お姉ちゃんっ!!!」
怜華が叫んだ途端、追っ手が全員地面に膝をつき、項垂れた。
「安心しろ。少しの間の記憶を消させてもらっただけだ」
怜凛らしい人は、そう言って安心させるように笑った。
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