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「薬師、まつ……。聞いたことがある」
美鶴はまつと名乗った商人に、双刀の片方を向けて睨んだ。
「花の街の女たちに、怪しい薬をタダで押し付ける。それを飲んだ女は、みな死んでいったと……。だが、その事件が起きたのは六十年は昔だ」
まつは壁に寄りかかり、煙管を片手にクツクツと笑う。
「その“まつ”はもうすでに死んでいるはず……と言いたいのかぇ?」
二人は互いをじっと見つめ続けた。
「おなかすいた」
だが、その破り難い静寂を破ったのは、エミリーのそんな呟きだった。
まつはエミリーを一瞬冷たく見下ろし、袖から一つの小さな袋を取り出す。
「飢えを一時的に凌げる薬じゃ。いざというときに使うとよい」
にっこりと笑うその顔は、怪しい人とは思えないほど美しい。
美鶴と光は、そんな二人を眉を顰めながら眺める。
そんな二人を見て、まつは飛び上がった。
一瞬で屋根まで飛び上がり、姿を晦ます。
「あの下駄で、飛び上がったのか?」
「ありえない……」
そんな彼女の下駄は、ゆうに50cmを超えていた。
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