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冬だと言うのにうららかな、陽気な太陽。人々が行き交う大きな道。
どの人も黒い髪の人なんていない。
紫伯梁の店の二階のベランダで、膝を立てて座って頬杖をついた怜華は、まるで大河のようにのろのろと動く人を冷めた目で見ていた。
「怜華。何してるんだい?」
ライアの声で、怜華は夢から覚めたかのように顔を上げ振り返る。
ライアは前髪を左右にわけ顎のあたりまで伸ばしている。
縫い直した左頬の傷が生々しくあの日を蘇らせ、その双眸は彼女のライアに対する最後の贈り物であることを痛感させる。
背中の辺りまでだった金髪は一つにまとめている。今は腰に届きそうだ。
そう。あの日から三ヶ月。
怜華が穴に落とされ、気付けばここにいた。それを聞いて紫伯梁は無理だと言った。
怜凛は、もう帰ってこない。
でも怜華は信じた。必ず戻ってくると。
信じて三ヶ月余り。
「一月三日。今日はお姉ちゃんの誕生日なんだよ? お誕生日、おめでとう。言ったこと……ないんだよ……?」
ライアから目を逸らし怜華は呟く。
「いっぱい、お菓子作って……食べて、笑って。そんな誕生日にしてよ……。いつもいつも、迷惑掛けてたんだから……この日くらい!」
「怜華……?」
部屋へと通じる扉から心配そうな紫伯梁の顔が現れた。長くなった髪は後ろに一つにまとめられ、一筋混じる紫の毛が異様さを感じさせる。
その切れ長な目を見て怜華は口をギュッと結んだ。
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