誰そ彼隧道奇譚(たそがれずいどうきたん)

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 四月十七日、平日。  私の町の桜は段々と、咲くよりも散る花びらのほうが多くなってきていた。  二年生になったばかりの高校は、まだろくに登校していない。  制服を着て、朝、家を出る。でも、学校にはたどり着けない。電車に乗って、適当なところで降り、怪しまれない程度に適当に歩く。私は元から素行がいい方ではないので、そうした彷徨は慣れっこだった。  それなら制服を着ない方がよさそうな気がしつつも、私服を着る気にはなれなかった。私服が嫌だというわけではなくて、形の組み合わせや、色合いや、そういったことを考える気力がなかっただけだ。  中学一年生になったばかりの弟がトラックにはねられた死亡事故から、一週間が経つ。 「金曜日か……今日は」  曜日の感覚が希薄になってきていた。初めて見るスーパーの「本日金曜大特売の日」という(のぼり)がそらぞらしく翻っている。  教科書の入っていない通学鞄を持ち――お財布や携帯電話は一応入れてある――、午後の太陽を浴びながら、知らない町の県道をのろのろと歩く。  もうすぐ日が暮れ出すだろう。そうしたら電車に乗って帰る。  担任からは、携帯にも家にも連絡が入るけど、私は電話に出ないし、家でも受話器を取る人はいない。
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