十五章 富士山

22/24
前へ
/636ページ
次へ
「『お久しぶりです。みんな、忙しいのに、時間を見つけて来てくれて有難う』」 そんな言葉から始まった。 「『今日は、私が新しく出発するのに、みんなに報告したくて来てもらいました。見て通り、私は2年間、絵の勉強をして、今沢山の絵を描いています』」 その後は、この2年間のことを綴っていた。 試しに始めた室町さんは、とにかくアイドルのことは忘れたかったらしい。他のことを考えなくていいものが欲しかったらしく、それが絵画だったと言う。 はじめてみたら、絵画を描くのが楽しくて、毎日が充実していたとも書かれていた。 「『でも、結局、アイドルやみんなのことを忘れるなんて出来なかった』」 私は喉に何か詰まるものを感じる。 「『みんなが頑張っているのをテレビで見るたびに、約束を守れなかった自分が嫌になって、申し訳なくなって、私がみんなの夢を奪ったってそればかり考えてた』」 胸が痛い。私は絵画を自分で一度辞めたけど、それでも心は鉛のように重くて、辛かった。 辞めざるを得なかった彼女は、どのくらい辛かったのだろう。それを考えると、読むのも辛くなった。でも、これを提案したのは私だ。 ちゃんと責任持ってやらないと。 「『だから、ずっと、私は自分のやりたいことをやらない方がいいと思ってた。私は私が許せなかった。 今、匿名で絵画を数枚売ってる。白浜さんが、すごく褒めてくれて、本当に画家、室町理絵として活動したくなった。だから、みんなに許してもらいたくて、今日来てもらいました』」 これを書くのにどれだけ勇気がいるんだろう。 声が震える。 「『どうか、画家として新しく出発させてください』」 同時に、室町さんは頭を下げた。 彼女の責任感の強さが胸に響く。 安土さんが、頭を下げる室町さんを抱き締めた。
/636ページ

最初のコメントを投稿しよう!

72人が本棚に入れています
本棚に追加