序章 美

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「ということで、昨日から新卒が来てます。自己紹介お願いできる?」 「は、はい」 倉内さんに見とれている場合じゃなかった。 立ち上がって、90度に頭を下げる。 「白浜彩月(さつき)です。よろしくお願いします」 「よろしくお願いします」 挨拶をすると、木霊して返ってきた。 なんか転校生ってこういう気分なんだろうな。 周りが慣れた環境に飛び込んでいかないといけないような、勇気なんかないのに否が応でも勇気を出さなきゃいけない瞬間。 「何か報告とかありますか? なければ、もう切っちまおうと思うんですが」 「白浜さんの歓迎会は?」 間宮さんが言った。 「ああ。そうだな。じゃ、幹事は守谷で」 「はい」 守谷さんって倉内さんの言うことなんでも聞いていそうだな。 というか、倉内さんへの絶対的信頼があるというか……。 そんな思考をしていると、オフィスの扉が開いた。 眼鏡を掛けた40代前半くらいの男性。 見覚えがある。 「あれ、長坂(ながさか)さん」 倉内さんが立ち上がる。 あ、そうだ。東京の営業部長、長坂さんだ。 「悪いな。今、大丈夫か。ミーティング中?」 「いや、大丈夫っす」 長坂さんにも敬語崩すんだ……。 東京統括してるのに……。 長坂さんは相談スペースのところに鞄をおくと、資料を出して倉内さんに渡した。ペラッとめくって、「ああ」と納得しながら、中身を確認している。 「それ、渡しておいて。あと、今月で空けられる日聞いてもらえると助かる」 「了解っす」 そう言いながら、長坂さんには目もくれず、中身を真剣に読んでいる。 何の話かはわからないけど、あー、こういうところも様になってるなぁ。 いちいち格好よくて困る。
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