序章 美

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ArtsUtopia(アーツトピア)株式会社。美術商の会社。美術商の中でも、おそらく日本で一番大きい会社だ。最近、上場して益々発展している。 新卒の私は今日から池袋支店に配属だ。 美大出身で上手く入社できた。絵画で自分を売れないかとも思ったが、凡人の私には最後まで芽が出ることがなかった。 それでも美術に関わる仕事がしたくて、今、私はここにいる。 美術に関するところならどこでも良かったわけじゃない。 ArtsUtopia株式会社は黄金の勝利という絵画で6年前、世間を賑わせていた。黄金の勝利は200億円もするが、手にしたものは時代を変えるという曰く付きの絵画だ。 その絵画をArtsUtopia株式会社が保有し、黄金の勝利を購入したい人を募集した。候補になる購入者は沢山おり、最後は10人まで絞ってディーラーとタッグを組み、ディーラーのプレゼンで購入者を決めた。 そんなぶっ飛んだやり方に、視聴者は釘付け。購入者は投票によって決められた。 あのとき勝った女性ディーラーのプレゼンは今でも忘れられない。そのときの最年少で紅一点だったからか、彼女は購入者でもないのに時の人となった。 だから、私は、そんなディーラーになりたくて入社した。 ここなら生き甲斐が見つかるんじゃないか。そう思った。 「あー。あれな」 池袋支店の支店長、倉内さんは入社動機を話すと、なぜか面白そうにニヤリとした。 何が面白いのかわからない。 「何、あいつになりたいの?」 知っている素振りを見せる倉内さん。 そうか。同じ会社だし、当時からの年齢考えると、あの女の人とあまり変わらなそうだ。同期なのかもしれない。 「ご存知なんですか?」 「ん? ああ。子ども生まれて辞めちまったけどな」 あの女性は結婚して子どもも出来たのか!? すごいなぁ。 私は倉内さんを見た。口は悪いけど、この人、多分できる人だ。 先ほど、一目惚れをしてから、乙女モード全開だった。 そもそもちょっと怖いだけで、イケメンだし。32歳。10歳差くらいなんてことない。むしろ同期より全然ありだ。しかも、池袋支店を一番売上のある新宿支店と並ばせた凄腕の持ち主と噂で聞いている。 格好いい。
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