序章 美

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「ま、良いんじゃね? あいつになんのはクソ大変だけど」 「どんな人なんですか?」 「じゃじゃ馬……いや、猪か? とにかくアホだ。夢のためなら、そこに全力投球するような奴」 「それ、山崎(やまざき)さんに怒られますよ」 お茶を持ってきてくれたのは、守谷さん。池袋支店の副支店長だ。優しそうな雰囲気で、さっき支店に入るときも一番安心感を与えてくれた人だ。 そういえば、あのディーラーの女性、山崎って言ったっけ。 守谷さんも知ってるみたいだ。 「あ? まあ、ここにいねぇし」 鼻で笑いながら、彼は楽しそうだ。 「山崎さんに倉さんがディスってること言っておきますね」 「それはやめろ」 「白浜(しらはま)さん、良かったね。池袋支店で」 「はい?」 守谷さんの言葉に首を傾げる。 「君の憧れの女性を一番知ってる人だから。倉さん」 「……え?」 ん? 倉内さんをの左手の薬指に指輪がしてあるのに気づいた。 血の気が引いていく。 まさか……。 「……一番知ってるっつうか、奥さんだからな。俺の」 にやりとした倉内さんは悪魔に見える。 乙女の心は砕けていく。 え、嘘でしょ。 もう失恋なの? 「倉さんはずっと隣で山崎さんを見ていたから、色々教えてくれるよ」 「ま、よろしく頼む。山崎みたいなのが来てくれると、こっちも仕事にハリが出るからな」 よろしくと呑気に差し出された手に、私はなんとか応えた。でも、やだ。なんで、好きになった人が憧れていた人の夫なの!? ほんと、信じらんない!
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