十五章 富士山

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「居酒屋も考えたんだけど、静かな方がいいかなと思って」 「……はい」 確かに、サンシャイン通りにある居酒屋は学生もいるから、だいぶ騒がしい。展望台のレストランはお洒落だし、学生がいたとしても静かにしなければいけないような雰囲気だ。 というか、こんなところで飲むの? 「好きなの頼んで良いよ」 席に案内されて、メニュー表を開くと守谷さんが言った。 「えっ」 「絵が売れたお祝いもだし、もう一つお祝いすること増えたみたいだから、奢る」 「いや、そんな……」 「奢らせてよ。気にする必要ないから」 ここは、多分奢られておいた方がいいのかな。 失恋したとして、こんなところでお金払わなきゃ良かったと後悔しそうだし。 そう自分に言い聞かせた。 ワインを頼んで、アラカルトで適当に頼む。 ワインが来ると、乾杯になって、落ち着いた。 「久しぶりだね」 「あ、すみません……」 「責めてるわけじゃないんだ。顔見られて良かったと思って」 守谷さんの優しい微笑みに顔が火照る。 「改めて、色々とおめでとう」 「色々ということは、私がバロック美術展に選抜されたことも……」 「知ってるよ。倉さんから聞いた」 そうなんだ……。 「山崎さんが鬼畜なことしてたんでしょ?」 「あ、はい。高額の絵画しか売るなって言われまして」 「あの人、やることは倉さんより鬼畜だからね。多分、長坂さんのせいだけど」 苦笑しながら、ワインを飲む守谷さんに見とれる。 まずい。久しぶりすぎて、感情が爆発しそう。 私、持つんだろうか。 というか、変なこと口走りそう(さっき一度やらかしてるし)で怖い。 「あの、倉内さんが守谷さんのこと心配してました」 「心配?」 「最近、新宿支店行けてないから、守谷さんは大丈夫なのかって」 「……? 昨日来たよ?」 ……最悪だ。あの人、私のことハメた? 私が勇気を出して守谷さんに会いに行けないことをわかってたんだ。 酷い。あとで、文句言ってやる。 「ああ、なるほど。僕が白浜さんに会いたいって話をしたから、倉さんが機転をきかせてくれたんだね」 「……えっ」 「今は、だいぶ仕事も落ち着いているから、呼ぶなら明日くらいが良いんじゃないかって昨日言われた」 ……だから、ハメたよね? さっきも、きっとスマホの内容なんかちゃんと見てなかったんじゃない? 私がちゃんと守谷さんと向き合うように仕向けたんだ。 やられた……。
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