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「仕事、楽しい?」
守谷さんに問われた。私は大きく頷く。
「なんだか、生きてる心地がするっていうんですかね? 人生で初めて、何かに打ち込むことが楽しくて充実してます」
「そっか。良かったね」
「はい」
口角を上げる。こういう報告を先輩の彼にできるのは、とても嬉しいことだった。生ハムを口に入れる。生ハムのしょっぱさが程よくて、つい酒が進む。
「白浜さんはバロック美術展どこになったの?」
「博多です」
「それはラッキーだね」
「みんなに言われます」
苦笑する。
「少しずつ階段を上ってるんだね。あ、そうだ。あれから、絵は?」
「描いてます。それこそ、休日なんかは……」
ハッとする。あ、守谷さんに休日暇なのバレた。守谷さんは私をみて吹き出した。
「いいよ。他人に会うより、絵に没頭したいことが多いって、何人か画家さんから聞いてるから」
「すみません……」
私、最近、失言が多いな。
政治家だったら、すぐに辞職させられてるレベルだよ。
「どういう絵を描いてるの?」
ああ、失言をフォローしてくれる守谷さんの優しさが痛い。
多分、傷つけたよね。
でも、まさか、好きだからとも言えないし。
「バベルの塔です」
「バベルの塔って、旧約聖書の?」
「はい。でも、日本版にしようと思ってて」
「あ、じゃあ、スカイツリーを?」
守谷さんの感覚はすごいな。私は頷く。
「下から見上げると、日によっては雲も下がっていて、建物を覆ってるんです。下からのアングルで描くと、天まで登ってるような感じなので、これを題材に今、描いてます」
「へぇ。そういうちょっとファンタジーなの好きなの?」
「え?」
「いや、日常の中にファンタジーを盛り込むの好きなのかなって」
そう言われて、私は目をぱちくりさせた。まさか、私の嗜好をすぐに見破られるとは思わなかった。
でも、家族が求めているのは、そういう絵ではなく、全うな万人に好かれるような絵画だった。よくそこで苦しんだ記憶がある。
「私、ちょっと幻想を抱くのが好きみたいで……。絵を描いていても、精霊描いたり、ちょっと神話を織り混ぜたくなったりするんです」
そういうところは、私は、甘利さんに似ているのだ。甘利さんも、優しい絵画にファンタジーを盛り込む傾向がある。だから、嫌なのだ。私は嫌でも甘利さんと比べてしまう。甘利さんがすごい素敵な人だから、守谷さんが惹かれるのもわかるのに。
「出来たら、見せてよ」
「え?」
「白浜さんの絵画、出来上がったら一番に見せて欲しい」
そうやって、期待させるような言葉を掛けるのやめてほしい。
落ち着け。私。
彼は画家としての白浜彩月に期待してくれてるだけだ。
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