十五章 富士山

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「わかりました」 「もしかして、今日も本当は邪魔しちゃった?」 「?」 「絵を描きたかったんじゃないかって思って……」 それもあった。けど、実際は違う。 私は守谷さんから逃げたかっただけだ。 「いえ、今は、色を決めかねてるので、停滞中です」 色を考えたかったのはある。でも、考えても多分、今日はもう思いつかない。断ってたらきっと断ったことばかりが思い出されていたと思う。 私は、少なくとも彼と一緒にいられて嬉しい。断らなくて良かったと今は、思ってる。 「停滞中なのに、楽しそうだね」 「昔は焦っていたんですけど、期日があるわけでもないですし、むしろちゃんと絵画に向き合えているのが嬉しいんです」 楽しい。こうやって、私が楽しいと思っていることを具体的に見出だしてくれている彼が好きだ。 「そっか」 守谷さんは自身も嬉しそうにすると、ワインを一口飲んだ。そして、決心した顔を私に向けてくる。 「白浜さんって今、好きな人いるの?」 唐突の質問に私は、表情をなくした。 ドクンドクンと胸だけじゃなく、全身が心臓になったみたいだ。 「え……」 「急だよね。ごめん」 何が起こってるんだろう。 あれ、なんで、こんなこと聞くの? 私が聞くときは好きな人に聞くときなわけで……。 いや、待とう。私は、恋愛脳なんだから、そこに一直線に繋げるのは短絡的だ。 「いや、まあ、その……」 もういるのがバレる返答だった。守谷さんが苦笑する。 多分、私、今、顔がハバネロみたいに赤いと思う。顔から辛み成分吹き出しそう。 「僕が以前、好きな人がいるって話をしたの覚えてる?」 ついに……来た。 付き合ったのかな? 何かあっての相談かな? いや、甘利さんと結婚するとかそういう話しかもしれない。 3月のとき、イベントで見かけ2人は本当に素敵だったし。 どうする? 結婚指輪どれがいいと思うとか、少女漫画的なモブの役割をさせられたら……。私、明日生きてるかな。
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