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「今、僕が誰の話をしてるかわかる?」
……?
「甘利さんのことでは?」
それを言うと、守谷さんは盛大にため息を吐いた。
「ああ、倉さんの予想通りだ」
「え?」
全然ついていけない。
「白浜さん」
呼ばれた私は思わず背筋を伸ばした。
「僕が好きな人は甘利さんではないよ?」
え、違うの?
じゃあ、誰──
「白浜さん」
名前を呼ばれて、私は思考が止まった。
……今、誰だって言ったの?
え、好きな人の名前を言ったんだよね?
「すごい。ここまで鈍感だと思わなかった」
「……」
「もう一度言うけど、僕が好きなのは白浜彩月さんだよ」
私……?
「何を勘違いしたのか良くわからないけど」
「あの……」
「ん? もう一回言わないとわかってくれない?」
ちょっと怒り気味に彼は口を開く。
いや、頭では理解できた。理解できたけど……。
私?
「えっ、だって甘利さんなんじゃ……」
「いつどこで甘利さんになったの?」
「いや、こないだ好きな人いるって言った時に愛海さんとは違うタイプで忙しいから今は言わないようなこと言ってましたし、3月のイベントのときも甘利さんと話してるときに真っ赤に……」
そう言うと、守谷さんは少し考えてから、頭を抱えた。
「ああ、あのときを見てたんだ」
「仲睦まじかったので……」
守谷さんの顔は、熟したトマトのように赤い。
「一つ一つ弁解していい?」
「……はい」
本当に私のことが好きなのだろうか。
怪訝にしながら、守谷さんの言葉を待つ。
「まず、山崎さんとは違うタイプだよね。白浜さんも」
「そ……、そうですね」
「で、一番頑張りたいってバタバタしてた時期だから、何も言わなかったんだよ」
「……はあ」
「ちなみに3月のイベントのときには、甘利さんには白浜さんへの気持ちがバレてて、白浜さんとのことをからかわれただけ。早く告白しろとか、なんとか……」
……初めて聞く話に、私は衝撃を受けた。
「あの日、白浜さんの絵を山崎さんが売らなかったのは、僕がお願いしたから」
「お願い……」
「好きな人のことを全力で応援したいって、僕、山崎さんに言ったんだよ。山崎さんには売らないでくれって」
「私の……絵をですか?」
「そうだね」
そんな話だと、夢にも思っていなかった。身体が熱い。
じゃあ、期待しちゃうって思ってた言葉は、素直に受け取っておいて良かったんだ……。
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