十五章 富士山

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「ほら、やらかした」 幸いなのは明日明後日が土日だと言うことか? 今日帰ったら、ソファの上で愛海がぐったりしていた。 熱を測れば、38度。 家でも何処でも仕事しすぎだ。 「ごめん。今、ご飯作……」 「作らなくていい。俺がやりゃいいだろ」 ネクタイを緩める。 熱あんのにご飯作るとか。アホか、こいつは。 「お母さん、大丈夫?」 心配して、美海が顔を覗かせた。ままごとみてぇに、おでこに手を当てている。最近は、お母ちゃんから、お母さんとちゃんと言えるようになった。 つうか、来年はもう小学生なんだよな。こいつ。 愛海は苦笑した。 「大丈夫。移っちゃうから、お父さんといなさい」 「うん」 ちょっと心配そうにしながらも、手招きすると俺のところに来た。 冷蔵庫を確認して、適当に何か作れねぇか考える。 お、焼きそばあんじゃねぇか。 オム焼きそばにしちまえばいいや。 明日土曜で、美海は幼稚園ねぇけど、実家に頼むか。 「焼きそば食うか」 「食べるー!」 適当に野菜を切ってオム焼きそばを作った。 「うまい!!」 「おお、うめぇか」 割と美味くできたらしく、美海は頬張りながら目を輝かす。 可愛いな、おい。 いくらでも作ってやりたくなる。 「ごちそーさま!」 「風呂入ってこい」 「はーい」 最近は、風呂も一人で入れるようになって手が掛からねぇな。その間に洗い物を済ませて、愛海の様子を見る。ソファの前で胡座をかいた。 「飯は?」 「食欲ない」 「なんか口に入れられそうなもん買ってくるか?」 「……いや、いいよ」 食欲はないらしい。 「春江さんのこと、引きずってんだろ?」 「引きずってるというか……」 「なんだよ?」 「もうちょっとやれることあったんじゃないかなぁって」 「それを引きずってるって言うんだろうが」 まあ、言いてぇことはわかるけどな。
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