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「けどよ。お前がいたから、春江さんは最後笑顔になれたんじゃねぇの?」
「うん……」
「あと、それだけだと思ってたけどよ。……もしかして、色々とプレッシャーになってねぇか?」
熱が出ねぇとまともに聞かねぇだろうと思って、今日まで、黙ってた。愛海は眉間にシワを寄せ、俺から目を逸らした。
「背負いすぎ」
「……」
「確かに、神谷様に言われてとか、春江さんに言われてとかあっかもしれねぇけど、こんな働き方してたら12月になる前にぶっ壊れる。勝負の前に身体壊してんじゃねぇよ」
「バレてた?」
「前に一度あったからな。オーバーワーク」
愛海が前にオーバーワークをしたときも、黄金の勝利のイベントが近づいていた頃だった。
普段はそんなことねぇのに、近づくと、プレッシャーになるのか。それとも怖ぇのか。がむしゃらに働きすぎる。
「……なんか、ここに来て、ビックリするくらい怖いんだよね」
「おう」
「ずっと1位じゃないといけない気がして。黄金の勝利のことを考えると、色々なものが足りてないんじゃないかって。……週5日じゃ足りないって思っちゃう」
ああ、俺にはわかんねぇ苦しさだな。
つうか、きっとこいつにしかわかんねぇよ。
前回は、乱暴な言い方すれば、ベテランたちを押し退けりゃよかった。
だが、今は、逆か。押し退けられないように必死なわけだ。
「だけど、何が足りないのかわからない」
そりゃそうだろ。
あのときはまだ若手だったんだから、いくらでも成長できた。
あのときの愛海は、良くも悪くも経験不足で、成長の幅が大きかった。今は成長の幅はそこまでねぇくらい、彼女はチート主人公みてぇだ。
「ねぇ、あと何を頑張ればいいと思う?」
本気で聞いてくる愛海に、思わずため息をついた。
生粋のアホだな……。
「お前があと何をすればいいか?」
「うん」
「休息だろ。休めよ」
愛海の欲しい返事じゃねぇのはわかっていた。
案の定、彼女はムッとした表情を浮かべる。
「まともに答えると査定ってなるけどよ。別に黄金の勝利のディーラーに査定はそこまで関係ねぇ。販売は、他の社員と同じように。土日に出たら、ほとんど1位だろうし、足りねぇのなんて健康管理くらいだろ」
髪を絡ませながら頭を撫でる。
「お前が不安になんのはわかる。色んな人の期待が重圧になってんだろうし、自分自身にも期待してんだろうしよ」
「……」
「自分に期待しすぎんな。周りに必要以上に応えすぎんな。俺が今お前に思ってんのは、そこだな」
愛海は俺を見つめた。そして、のっそり起き上がる。
「そもそも、そんな完璧人間じゃねぇだろ」
「……」
「お前は仕事が大好き、絵画が大好きってだけで、それを原動力に働いてんだろうが。他人の評価で動くような奴じゃねぇだろ?」
そう聞くと、愛海は目を見開いた。
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