序章 美

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「でも、聞いてよ。倉さんが山崎さん助けたんだよ? 格好いいよね」 「お前、その話好きだよな」 「だってもう、ドラマを観てるみたいだったので。僕個人では視聴率30パーセントって感じです」 「ハイハイ、ソーデスカ」 恥ずかしくなったのか。倉内さんは黙ってしまった。 「助けたんですか?」 「倉さんが山崎さんのこと大好きだったし、多分、応援してたんだよ。だからさ、池袋支店に異動していたのに颯爽と現れて、長坂さんと2人でセクハラ男を蹴散らしたんだ」 「すごい……」 長坂さんって、営業部長さんだよね? そんなすごい人も近くにいたの? 本当にドラマみたいな話だ。でもそうか、倉内さんが山崎さんのことを好きだったんだ。今の話でわかる。 話に入ってこない辺り、照れてるのかな? そういうところは可愛いなー。 「ちなみに、セクハラもひどかったけど、パワハラも半端なくて、山崎さんがそのとき1日にやっていた電話件数50件」 「え、50件!?」 「まあ、死ぬよね。それやりながら、僕に色々教えないといけなかったんだから」 苦笑すると守谷さんは止めていた手を動かし始めた。 私、もしかしてとんでもない人を目標にしてしまったんじゃないだろうか。単純に10件で1時間と考えても5時間くらい? 8時間労働のうち、5時間電話? ゾッとする。 「それじゃあ、アポ取りね」 「あ、はい」 今度は守谷さんにアポ取りの仕方を教えてもらった。 名簿は2種類あって、画家リストと購入者リストがあった。画家リストは絵画を売ってもらえないかのアポ取りで、ほとんど使用しないらしい。 というのも、この会社が大きくて、売りたいという人がひっきりなしに来るかららしい。購入者リストは過去に絵画を購入したことがあったり、イベントに参加したことがある人。 イベントは、池袋支店はかなりの回数を行うと聞いている。支店によって違うらしいが、倉内さんが得意らしい。だからか、リストは相当数あった。 「まず、1日10件が目標」 「そんなもんでいいんですか?」 「いや、かなり大変だよ。10件って。さっきの50件の話は異常だから。山崎さんも仕事回らずサービス残業してたし。昼休みも当然返上してた」 守谷さんは苦笑すると肩を竦めた。
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