序章 美

7/19
前へ
/636ページ
次へ
「10件が楽勝とは頼もしいな」 目の前に座る倉内さんが言った。 この人にそんなこと言われると俄然やる気が出る。 まだ会って初日なのに。 「10件掛けるのに、電話をさらっとしてやるのは勿体ないでしょ。名簿の備考欄に、過去に何を購入したのか、どんなイベントに出たのかを確認してから電話するといいよ。思考しながら、電話した方がいい」 「はい」 返事をしたものの、思考しながらってどうやるんだろう? 全くわからない。 やり方を教えてもらったし、ロールプレイも実際にやったので、すぐに電話を掛けてみる。 「今はいいです」 「あ、そうですか。それではまたの機会に……」 絵画なんて、そんな簡単に買おうと思う人なんていないよな。 またの機会に……。いつだよ、それ。 教えてもらった通りにやっているけど、なんだかモヤモヤする。 10件が大変な理由がよくわかった。 掛けるのは簡単。でも、断られ続けると精神的にきつい。 「楽勝アピールしたわりに、4件でイライラしちゃってんの?」 先にそう言ってくれれば良かったのに。 意地悪そうに私に笑ってくる倉内さんが憎い。 「どうやれば、繋がるんですか?」 「繋がる方法を探れ。考えながらやるのも大事。さっき守谷がヒントくれてんだろ」 彼はそう言って、昼飯と弁当箱を持って出ていく。 「あと、6件掛け終わったら、画廊行くから頑張ってよ」 私の隣で守谷さんが言った。 「わ、わかりました……」 でも、一件は繋げたいなー。 私は名簿を見つめる。 備考をさっき見ろと言われた。
/636ページ

最初のコメントを投稿しよう!

72人が本棚に入れています
本棚に追加