序章 美

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よーく見つめてみると、備考のところに購入歴がある。 中には2回、3回と購入している人もいるようだ。 こういうところに掛けると良いのかなー? そう思って試しに掛けてみる。 「おお。そういえばしばらく見てなかったな……」 「いかがですか?」 「まだ支店長って倉内くんなの?」 「えぇ」 「それじゃあ、考えておくよ」 「ありがとうございます」 反応が全然違う。電話を切ると、守谷さんがにこりと笑っていた。 「こういうことなんですね」 「もちろん、購入歴がない人にも掛けるけどね」 そう言うと、守谷さんはメモを見つめた。 「フィードバックをしてもいい?」 「はい。お願いします」 「話し方、自然でいいね。敬語も使えてるし、あまり気にならない」 「ありがとうございます」 ダメ出しばかりされると思ったけど違った。 褒めてもくれるらしい。 「まあ、少し固いところもあるけど、これは慣れだから良いとして……。あとは会話をすることを心掛けるといいね」 「会話?」 「たとえば、最初って断られてどうしたらいいかわからないでしょ」 「はい」 「断られたときの会話を考えておく。『機会がありましたら』だと、いつになるのかわからないから、『イベントがありましたら、お誘いしてもいいですか』とか。さっきの考えておくよの返しは『わかりました。いつぐらいにお返事いただけますか』とか」 ……すごい。 話し方一つで、次に繋げられるんだ。 「相手の返事を想定しながら、会話をつくっておくといいよ。とくに池袋支店はイベント多いから、イベント好きなお客さんも多いしね」 「ありがとうございます! 勉強になります」 電話だけでも、色んな考え方があるのがすごい。 途切れた道に新しい道を作るような感覚だ。地図がどんどん広がる。 ということで、再度やる気になって、あっという間に10件を終わらせた。
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