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「信也の遺言、守ってくれて有り難う」
「ん?、何ですか急に改まって」
「私の面倒、ちゃんと見てくれてるじゃない」
「そんなの、当然の事ですよ」
晴海の紅茶は、夜風で冷めた所為もあってひどく甘かった。
義母の紅茶はどんなだろう?、試したくも無いが少し興味はあった。
「私が死ねば、信也の遺産は全て晴海さんのもの、よね?」
一つ、また一つと消えていく灯りを背に、義母は晴海に振り返った。
「もう、お暇だからって、くだらない事ばかり考えないで下さいね」
溶けるような笑みを浮かべる晴海に、義母の皺が刻まれた目元がほころんだ。
「晴海さん、もう一杯淹れてくれるかしら」
「お義母さん、最近糖尿がひどくなったんでしょ?。
砂糖は控えないと、命にかかわっちゃいますよ」
「老い先短い命が少し縮まってもね、これだけは止められないのよ。
スティックシュガーは1袋の半分だけ、本当はもっと甘い方が良いんだけどね」
「はいはい」
晴海はキッチンの戸棚を空け、スティックシュガーの入ったケースを取り出した。
ティーバッグを漬す時間は1分。
陶器の蓋をして、芳醇な香りが充満したダージリンに、
スティックシュガーを、1袋、すべて注ぎ入れた。
義母には内緒で、もう、3年も前から必ず1袋。
とても、とても甘いはずだ。
過度な糖分は、高齢の糖尿病にとって命取りらしい。
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