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「法要の手配はもう済んだの?」
「ええ、後は来週、皆さんが集まってからで」
信也が脳腫瘍で死んだのは5年前。
医者の不養生。そんな在り来たりな格言がぴったりだった。
死の数年前、信也の父が死んだ。晴美にとって義父である。
義父も外科医で、それは大きな病院を経営していた。
信也は、その病院を莫大な遺産ごと相続する事になった。
父の死、遺産相続、驚天動地の連続に信也は狼狽してばかりだった。
一人冷静なのは晴海だった。
―*―*―*―*―
「あの時は、晴美さんだけが落ち着いてくれてて、とても助かったわ」
義母は、褐色のダージリンを水鏡にするように覗き込んだ。
「あ、いえ、信也さんもすごく戸惑ってたし。
無理ないですよ、いきなり大病院の医院長ですからね」
「それに、莫大な遺産も、よね?」
義母の無機質な声色に、晴海は即座に顔を上げ、義母の退色した瞳と視線をぶつけた。
―*―*―*―*―
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