砂糖 ~POISON~ 短編/完結

1/4
前へ
/4ページ
次へ

砂糖 ~POISON~ 短編/完結

 ティーバッグを浸す時間は1分。 陶器の蓋をして、芳醇な香りが充満したダージリンをカップに注ぐ。 スティックシュガーは1袋の半分だけ。  華やかな香りの湯気にうっとりしながら、きらきらとした砂糖粒を、琥珀色にゆっくりと溶かしていく。  ……ゆっくりと……  ―*―*―*―*―  晴海が医者だった信也と婚約したのが9年前。 籍を入れたのが8年と2ヶ月前、信也の両親と同居を始めたのが7年と8ヶ月前。  「母さんは糖尿だから、スティックシュガーは必ず1袋の半分だからね」  信也がその言葉を口にした日の夜から、晴海にとって「セックス」は「作業」になった。気持ちが悪かった、全てが冷めてしまった。 いや、もともと冷めるような愛など存在したのだろうか。  ―*―*―*―*―  「晴海さんの淹れる紅茶、何年飲んでも飽きないわ」  「そうですか? お義母さんの行くお店の方が、よほど手が込んでると思いますよ」  「駄目駄目、香りが高いのは、最初の2、3回だけ。 あとは、そうねえ、磨り減ったビデオで見る飽きた映画みたいなものかしら」  「ふふふ、わたしの紅茶は色褪せないDVDなんですかね」  手入れされたテラスの観葉植物が、月明かりを飲み干した夜露に濡れている。義母は車椅子になってから、ここでティーカップを回すのが日課になっているようだ。 晴海は義母の斜め前のある椅子に腰を落ち着けた。  ―*―*―*―*―
/4ページ

最初のコメントを投稿しよう!

2人が本棚に入れています
本棚に追加