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砂糖 ~POISON~ 短編/完結
ティーバッグを浸す時間は1分。
陶器の蓋をして、芳醇な香りが充満したダージリンをカップに注ぐ。
スティックシュガーは1袋の半分だけ。
華やかな香りの湯気にうっとりしながら、きらきらとした砂糖粒を、琥珀色にゆっくりと溶かしていく。
……ゆっくりと……
―*―*―*―*―
晴海が医者だった信也と婚約したのが9年前。
籍を入れたのが8年と2ヶ月前、信也の両親と同居を始めたのが7年と8ヶ月前。
「母さんは糖尿だから、スティックシュガーは必ず1袋の半分だからね」
信也がその言葉を口にした日の夜から、晴海にとって「セックス」は「作業」になった。気持ちが悪かった、全てが冷めてしまった。
いや、もともと冷めるような愛など存在したのだろうか。
―*―*―*―*―
「晴海さんの淹れる紅茶、何年飲んでも飽きないわ」
「そうですか? お義母さんの行くお店の方が、よほど手が込んでると思いますよ」
「駄目駄目、香りが高いのは、最初の2、3回だけ。
あとは、そうねえ、磨り減ったビデオで見る飽きた映画みたいなものかしら」
「ふふふ、わたしの紅茶は色褪せないDVDなんですかね」
手入れされたテラスの観葉植物が、月明かりを飲み干した夜露に濡れている。義母は車椅子になってから、ここでティーカップを回すのが日課になっているようだ。
晴海は義母の斜め前のある椅子に腰を落ち着けた。
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